2025年12月5日(金)

脱「ゼロリスク信仰」へのススメ

2025年11月15日

被害者であり加害者である農業

 農業分野でのPFAS問題は複雑である。一方でPFASによる土壌や水質の汚染の「被害者」となり、もう一方では一部の農薬や資材の使用を通じて、PFASを環境中に拡散させる「加害者」にもなる。

 一部の農薬は、その化学構造にフッ素を含む。欧州の市民団体PAN Europeによれば、EUで承認されている農薬のうち37種類がPFASに該当する。

農薬だけでなく、その容器にもPFASが含まれている可能性もある(Visivasnc/gettyimages)

 農薬だけでなく、それを保存・輸送する容器が汚染源となるケースも指摘されている。米国環境保護庁(EPA)は、農薬を充填する高密度ポリエチレン容器から、PFOAなどのPFASが溶出し、農薬を汚染した事例を報告している。

 さらに、化学肥料や、都市の下水処理過程で発生する下水汚泥が、新たな汚染源となる可能性が指摘されている。下水には、家庭や工場から排出されたPFASが含まれ、それらが汚泥に濃縮される。これを肥料として農地に還元することは、資源の有効活用や循環型社会の構築という観点からは推奨されるべきだが、皮肉にもPFASを農地に持ち込む結果となりうる。

 この問題の深刻さを物語るのが、米国メイン州の事例である。同州では、かつて製紙工場などから出された汚泥を肥料として利用していた。その農地で、広範囲にわたる深刻なPFAS汚染が発覚したのだ。

脱炭素の〝救世主〟の危機

 人工知能(AI)の利用拡大に伴い、電力が不足することが懸念されている。大量の電力を消費するのは、高性能演算装置だが、そこから放出される膨大な熱を冷却するための冷却装置も、同じくらい大量の電力を消費する。そして、冷却のために使用されるのが冷媒である。

データセンター環境における冷却システム(panumas nikomkai)

 冷房・冷凍産業は、過去数十年にわたり、オゾン層保護と地球温暖化防止という二つの地球規模の環境問題に対応するため、使用する冷媒の転換を繰り返してきた。しかし、気候変動対策の切り札として期待された新世代の「環境配慮型」冷媒が、今度はPFASという新たな規制の網にかかるという、極めて皮肉な状況に直面している。

 問題は、かつて主流であったハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒の一部や、その代替として開発された次世代の低地球温暖化係数(GWP)冷媒であるハイドロフルオロオレフィン(HFO)冷媒は、PFASに分類されることである。これらの冷媒は、大気中で比較的速やかに分解される。特にHFO冷媒は、十数日で分解され、GWPが極めて低いことから、気候変動対策に貢献する優れた代替フロンとして位置づけられてきた。しかし、問題になったのは、分解した後に生成される物質である。

 HFOが分解されると、ほぼ100%がトリフルオロ酢酸(TFA)になる。TFAは安定で難分解性のPFASである。


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