2025年12月31日(水)

Wedge REPORT

2025年12月11日

「一部傾向の変化」は改善なのか

 一方で今回の調査結果について、文部科学省は、「不登校児童生徒数の増加率の低下等、一部傾向の変化がみられる」とコメントしている。それは以下の2点を踏まえた分析である。

・不登校数の増加率が前年度の15.9%から24年度には2.2%へと大きく鈍化している。

・不登校児童生徒のうち「前年度は不登校としてカウントされていなかった新規不登校」の数も、小学校で7万419人(前年度7万4447人)、中学校で8万3409人(前年度9万853人)と、いずれも減少に転じている。

 単に「過去最多」という見出しだけでは見落とされがちなポイントである。

 ただし、こうした「増加率の鈍化」や「新規の減少」は、「12年度以降の長期的トレンド」と比較すると、まだ微細な変化の範囲にとどまる。すなわち、「増加という大きな流れは続いているが、その伸び方に変化が出始めている」というのが現時点での冷静な分析といえるだろう。

「登校拒否」から「不登校」へ:概念と定義の変遷

 不登校をめぐる議論を理解するには、用語・定義の変遷を押さえておく必要がある。筆者が教員として現場に立ち始めた昭和60(1980)年代は「登校拒否」という言葉が一般的であった。そこには、「本人の「拒否」=意思の問題」「家庭の養育姿勢の問題」といったニュアンスが色濃く、社会・学校環境の側に潜む要因は十分に可視化されていなかった。

 転機となったのは、98年の「不登校(登校拒否)に関する調査研究協力者会議報告書」である。従来の「登校拒否」という呼称は、本人の意思や性格に原因を求める誤解を生みやすく、背景の多様な要因が見えにくくなるとの指摘がなされた。

 そのため、より中立的で包括的な概念として「不登校」という用語を用いることが提案された。こうした流れの中で、「不登校は子どもの心のSOS」であるという考え方が社会に広がっていくことになる。

 近年では、19年の通知(元文科初第698号「不登校児童生徒への支援の在り方について」)において、不登校の定義を改めて確認するとともに、病気や経済的理由による欠席とは区別して扱うことが示された。また、不登校を問題行動として否定的に捉えるのではなく、背景にある多様な要因を踏まえ、学校復帰を前提としない支援に努めることが強調されている。

 98年以降、定義は整理されてきたものの、現場レベルでは依然として「体調不良」をめぐる判断の揺らぎがある。家庭からの欠席理由の多くが「体調不良」である一方、それが医学的な「病気」なのか、心理社会的要因を背景とした登校回避状態なのかは、短時間の問診や面談で割り切れない場合も多い。

 結果として、どこまでを「病欠」とし、どこからを「不登校」とカウントするかは、最終的に学校の判断に委ねられ、自治体・学校によって運用に差が生じうる。この点は、不登校統計の解釈にあたり常に留意すべき前提条件である。


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