2025年12月31日(水)

Wedge REPORT

2025年12月11日

学校の「自由化」と機能分化

 一方、現場レベルでもここ10年ほどで学校の風景は大きく変わった。

 生徒指導の方針転換、熱中症対策、コロナ禍での感染症対策、1人1台端末の導入などが重なり、結果として以下のような「学校の自由化」が進んでいる。

• 授業中の水分補給やトイレへの移動の自由度が高まる

• ICT端末を前提とした「置き勉」(教科書などを学校に置いて帰る)が容認傾向

• 校則や生活指導の運用も、従来に比べて柔軟化

 肯定的に見れば、児童生徒の安心・安全を優先した環境整備であり、心身のコンディションを整えながら学べる学校への移行とも言える。

 一方で、現場教員からは、「どこまでが認められ、どこからが指導なのかがあいまいになった」という戸惑いや、「何でもありになってしまった」といった声も聞かれる。これは、学校の役割が一斉指導からケアや個別調整へと拡大していることの裏返しでもある。

「教育センター化」という将来像とその根拠

 こうした近年の教育行政の方針転換は、意図せず学校の機能分散を進行させている。例えば、1. 校内教育支援センターによる多様な学びの常設化、2. フリースクール・オンライン学習など学校外の学びの制度化、3. 部活動の地域移行による学校の役割の地域転化、4. 教員の働き方改革に伴う外部人材活用の拡大、などである。将来の学校は、児童生徒一人ひとりにとって最適な学びと支援を組み合わせる「地域教育センター」としての性格を強めていく可能性が高い。

 すなわち、学校は、教室という物理的空間で授業を行う場であると同時に、校内外の多様な学びと支援を編成し提供する「編成センター」としての役割を担うことになる。その意味で、「教育活動と施設が一体である」という日本型学校の大前提は、緩やかに、しかし確実に変容しつつある。

不登校が突きつける問い

 不登校の増加は、しばしば「子どもの問題」や「家庭の問題」として語られてきた。しかし、12年度以降の長期的な増加傾向と、24年度に至ってもなお35万人規模で推移している現状を直視するならば、それはもはや個別要因だけでは説明できない。

 一斉授業を前提とした「標準的な学校モデル」は、既に多様化した子ども・家庭・地域の実態とずれ始めており、複線的な支援システムへの転換の必要がある。これらを象徴的に映し出しているのが、不登校統計のグラフである。

 不登校問題は、「学校が努力すれば解決する」範囲を超え、学校制度そのものの再設計を迫る政策課題となっている。学校の教育センター化は、まだ途上にある概念にすぎないが、不登校の増加が突きつける問いに真摯に向き合うならば、その方向に向けた議論を避けて通ることはできないだろう。

 

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