ロシア軍の死者数が倍増
前線における戦況では、ロシア軍はウクライナ軍の拠点を相次ぎ制圧している。11月末には、ドネツク州の交通の要衝ポクロウシクを制圧したと発表。ウクライナ軍は否定したが、ロシアが同州の支配領域を拡大しているもようだ。
ただ、これらの戦果が膨大なロシア軍兵士の死亡によって得られている事実を見過ごすことはできない。
英BBCは12月末、現地メディアなどとの共同調査の結果、ロシア軍兵士の死亡者数が25年に前年比で約4割増大し、増加ペースが年後半に向かって加速していると報道した。11月の1日当たりの死亡者数は322人で、これは前年同月比で倍増していると指摘。戦争が始まって以降のロシア軍兵士の死亡者数は、最大で35万人程度に達したとみられている。
さらに、死者数の増加は米トランプ政権との間での和平交渉が集中的に行われたタイミングに向けてペースが加速していた。首脳会談の実施など、停戦に向けた動きが強くなるほど死者数が増大する傾向が確認されたのだ。重要な事象が起きるタイミングに合わせて、ロシア軍が猛攻をかけている実態が浮かび上がる。
明確な理由は不明だが、想像されるのは停戦交渉が妥結する前に、少しでも交渉で優位な立場に立てるようロシア軍が前線で無理な攻勢をかけている可能性だ。現在の停戦交渉の焦点はウクライナの領土の割譲をめぐる点で、ウクライナ軍が撤退することでドネツク州全域を奪おうとするロシアに対し、現時点の前線で戦線を凍結しようと主張するウクライナ側の溝が埋まっていない。同州の割譲は、ロシアにとり今後のウクライナ攻略に向けて戦略上重要な意味を持つとされる。
しかし武器の損失が進む中、犠牲をいとわない人海戦術でウクライナ軍に攻撃をしかけるロシア軍の前線での戦い方は、〝肉ひき機〟などと揶揄され常軌を逸している。ロシア軍は、戦争の序盤で経験が豊富な正規の兵士らが多く死傷し、その欠員をまず私兵集団「ワグネル」などの支援で埋めようとした。
ワグネルは自国の囚人まで駆り出して兵力を補填した。それでも足りない状況が生まれ、ロシア軍は今、年金暮らしで生活が困窮する地方の中高年者らに目を向けている。
各自治体は住宅購入支援や入隊の一時金などを提示し、一般市民に〝契約兵〟としての入隊を推進している。高齢者だけでなく、例えば多額の奨学金に苦しむ大学生らもターゲットにリクルートしている。
その結果、25年は10月までに33万6000人もの人々が契約兵としてロシア軍への入隊を決めたという。目標とする月3万人を上回るペースだ。
ただ、それらの入隊者は厳しい現実を目の当たりにする。25年に前線で死亡した兵士の大半は、22年の戦争開始時には入隊していなかった人々だった事実が明らかになっている。
これは、経験の浅い兵士らが最も危険な前線に次々と投入されている実態を反映している。25年では、軍全体では死亡者の3人に1人が契約兵というのが現状だ。
経験が浅い契約兵は当然、戦争開始時に所属し訓練された軍兵士より技能が劣る。高齢者ではなおのことだ。大量に動員された彼らは真っ先に命を失う危険にさらされる。
それでも、このような契約兵を大量採用する戦略は現在のロシア政府にとり必須となっている。契約兵がいなければ、ロシア政府は一般の兵士を大量に徴兵せねばならなくなるためだ。
