壊された
ルールに基づく国際秩序作り
加えてトランプ氏は、第二次世界大戦後に米国が中心となって築いた国際安全保障・経済秩序・政治秩序の3本柱を広範に弱体化させた。
米国は建前として「ルールに基づく国際秩序」を推進しながら、時には自国の利益のためにルールから逸脱することもあり、いささか偽善的なところはある。
しかしそれでも、国際秩序と多国間主義を基礎とする基本姿勢は変わらず、世界はその上に成り立ってきた。ところが、トランプ政権はこうした秩序の価値を否定し、多国間協力よりも単独行動と取引外交を優先した。その結果、伝統的な同盟国との関係が弱まり、国際協力の枠組みも揺らいだ。
その象徴が北大西洋条約機構 (NATO)の信頼性の揺らぎである。私は、NATOの第5条(加盟国が攻撃された際の集団防衛義務)がヨーロッパの平和を長年支えてきたことを評価するが、トランプ氏は NATO加盟国への批判を繰り返し、米国が防衛義務を果たすかどうかに疑念を抱かせた。もしロシアがバルト3国の1国、例えばエストニアに対して限定的な攻撃を仕掛けた場合、米国は即座に反応するのか。それが不透明になったのは、国際秩序にとって重大な危機である。
経済においても、トランプ氏の関税政策は国際貿易制度を破壊した。関税の乱発は世界貿易機関(WTO)体制を弱体化し、貿易の安定性を損ね、同盟国と国際企業の双方に不確実性をもたらした。人権への世界的関心や多国間主義も後退し、米国が長年築いてきた外交的信頼性は著しく失われた。
アジア地域では、特に台湾に対する抑止力の低下が顕著である。バイデン前大統領は台湾防衛について明言し、その発言自体はホワイトハウスの「戦略的曖昧性」と矛盾して議論を呼んだが、抑止力の強化という点では効果的だった。
一方でトランプ氏は同盟国との連携を弱める動きを見せており、中国が台湾や東アジアで攻撃的な行動に出る可能性が高まっている。さらに習近平国家主席が台湾政策を判断する際には、プーチン大統領のウクライナ侵攻の結果を重視する点にも注意が必要だ。もしロシアが軽い代償で侵略を成功させるなら、中国は同様の力による現状変更をより現実的な選択肢として捉える可能性がある。従って、ロシアに高い代償を払わせることは東アジアでの抑止にとって不可欠だが、トランプ氏はウクライナへの支援を弱める発言を繰り返し、プーチン氏を利する形になっている。
