2026年1月29日(木)

Wedge REPORT

2026年1月29日

観光価値は段階的に深化する

 価値の産業と言ったが、ではどのような価値なのか? 観光地域戦略を考察する際にはコアバリュー(中核価値)を考えるべしとよく言われるが、これは地域住民らにとっての地域のコアバリューと観光客にとってのコアバリューの2種がある。その接点は何かを考察することになるのだが、観光客にとっての観光の価値は一様ではない。

 例えば観光の価値の深化として下記のような考え方で考察してはどうだろうか。 

 第1段階は「見る・知る」(Difference Consumption)である。非日常的な風景や文化に触れることで、認知がリセットされる段階だ。多くの寺社観光や名所巡りはここに位置づけられる。

 第2段階は「買う・集める」(Commodity / Symbol)。土産物やブランド品の購入による所有の満足である。

 第3段階は「体験する」(Experience Value)。温泉、自然体験、アクティビティなどを通じて、身体的・心理的な回復が生まれる。これまでの観光価値はこの第1段階~第3段階までのどこかで語られることが多かったのではないか。

 第4段階になると、「意味・関係性」(Meaning / Relational Value)が生まれる。地域の人々との交流や、その土地ならではの文脈を理解することで、場所との関係が再構成される。

 第5段階は「変容」(Transformative Value)である。旅を通じて視点や価値観、行動が変わり、自己認識にまで影響が及ぶ。たとえば通常の寺社観光は第1段階に留まりやすいが、僧侶との対話や修行体験を組み込むことで、第4・第5段階にも到達し得る。北海道のアグリツーリズムや、スペイン・バスク地方のガストロノミーツーリズムは、高い付加価値を生む好例である。

 上記と近い考え方でより顧客の心理プロセスで価値を表現する方法もあり1,Reset(リセット)2,Referesh(リフレッシュ)3, Relax(リラックス)4, Reframe(意味の再構成)5, Transform(変換)という価値の区分けもあり得る。

 重要なのは、これらの段階に優劣をつけることではない。各段階をどう組み合わせ、観光の「厚み」を持たせるか。その設計こそが今後必要となる戦略である。

ターゲットは「国」でなく「地域価値への貢献度」

 これからの観光戦略の中心的な問いは、「どの国から来るか」ではなく、「誰が最も地域価値を高めるか」へと展開する必要があるだろう。評価軸は複数存在しうる。例えば、滞在時間、消費額、季節分散への寄与、再訪や交流といった関係性、そして地域負荷とのバランス等である。

 オーストリア・チロル地方は伝統的な大量観光から、観光の質・環境・住民生活を重視する政策へ転換してきた。日本の観光庁も観光地域づくり法人(DMO)が単に「数を増やす」ことではなく、地域の魅力の規格化・ブランド化・高付加価値体験の創出を目的とした戦略策定を推奨している。

 観光市場は国別だけではなく、滞在目的、滞在形態、価値段階、地域貢献度といった多軸でセグメント化すべき時代に入っている。


新着記事

»もっと見る