観光は「地域の価値創造装置」である
観光は、訪問客のためだけの産業ではない。地域住民に誇りや雇用、学び、関係性を生み出す装置である。
能登半島地震後の輪島では、「復興過程を実見する旅」や被災地の状況を学ぶツアーが実際に提供されており、単なる消費型の観光にとどまらない訪問・体験の機会が提供されている。こうした取り組みは、単なる観光消費にとどまらず、訪問者と地域の双方にとって関係構築の場となる可能性を持っている。
観光は、復興支援、文化継承、人材交流を同時に実現し得るのである。同様の構造は、日本各地で形を変えて現れ始めている。
例えば、長野県飯山市や新潟県十日町市などで展開されている「里山型学習ツーリズム」である。これらの地域では、農業体験や集落維持活動への参加、地域史や生活文化の学びを組み込んだ滞在型プログラムが増えている。
訪問者は「サービスの受け手」ではなく、地域を一時的に支える担い手として迎えられ、地域側もまた、外部の視点や知識から学ぶ。この双方向性が、単なる体験消費を超えた共創関係を生んでいる。
また、瀬戸内地域におけるアートと観光を媒介とした地域再生である。香川県の直島や豊島では、現代アートをきっかけに世界中から人が訪れる一方で、島の暮らしや歴史、自然環境そのものが鑑賞対象となる構造が形成された。観光客は「見る側」にとどまらず、地域の文脈を理解し、島の時間に身を委ねることを求められる。
結果として、短期的な消費以上に、地域の存在価値そのものが再定義され、住民の誇りや次世代への継承意識が高まった。
個人的には、北海道東川町に代表される「関係人口創出型観光」は多くの方に知ってほしい。東川町は、写真文化や家具産業といった地域資源を核に、移住・二拠点居住・長期滞在を誘発する仕組みを構築してきた。観光と定住の間にあるグラデーションを意識的につくることで、訪問者は一過性の旅行者ではなく、地域と継続的につながる関係人口へと転化していく。観光が人材循環の入口として機能している好例である。
これらの事例に共通するのは、観光を「売上最大化の手段」ではなく、「地域価値を再編集する装置」として捉えている点である。観光価値は、訪問客側の視点変容や学びといった「変容価値」と、地域側の誇り・関係性・共創の蓄積という「共創価値」の両立によって初めて成立する。
