ハタハタの教訓
ハタハタからの教訓は、①回遊域に即したレベルでの管理と、②履行確保のための法的あるいは制度的な裏付け、③予防的アプローチ、の必要性が挙げられる。
回遊域に即したレベルでの管理という点に関しては、ハタハタは先述の通り、秋田県にとどまらず、青森、山形、新潟、富山など回遊する地域全体を含めた漁獲枠の設定が必要であったということになる。県境を跨ぐ以上、国レベルでの管理を行うか、そうでなければ最低でも回遊域の県での斉一的な管理の設定が求められる。
履行確保については、法的あるいは何らかのペナルティを設定して、「ただ乗り」を防ぐ必要がある。しばしば日本では関係者の間で、「水産資源は地域レベルでの共同管理によって適切に管理されてきた」と地域レベルでのコモンズ(共有地)の研究でノーベル経済学賞を受賞したエリノア・オストロムを引用しつつ語られることがある。しかし彼女は地域レベルでのコモンズの管理が無条件に成功すると言っているわけではない。
全く逆で、それが成功するための条件を論及しているのであり、そこで繰り返し強調されているのが「ただ乗り」防止のための監視(モニタリング)メカニズムとペナルティの必要性である(オストロム(2022)、49-53及び110-117頁)。ハタハタ管理に欠けていたのは、まさにこれである。
水産資源管理において予防的アプローチとは、科学的な不確実性があるからといって、それを理由に対策を取らない言い訳としてはならないこと、種々の不確実性を十分考慮すること、自然現象が水産資源に重大な悪影響を及ぼしている場合、漁業活動が当該悪影響をさらに悪化させないよう、緊急に資源管理のための措置を講じなければならないこと、などを意味する(FAO責任ある漁業のための行動規範7.5「予防的アプローチ」;国連公海漁業協定第6条)。魚が獲れなくなったのは自然現象のせいだから(あるいは自然現象のせいかもしれないから)何もしない、あるいは緩慢な措置を取るのではなく、自然現象が魚に取って不利な状況になっているかもしれないというのであればなおさら、先手を打って資源保護策を実施する、ということにしなければならない。
水産資源の減少はハタハタだけに止まらない。農水省の統計によると、漁業・養殖業生産量は毎年過去最低を更新している。水産研究・教育機構による「令和7年度わが国周辺の水産資源の評価」によると、MSY(「最大持続生産量(Maximum Sustainable Yield)」の略語)という資源管理概念に基づいて資源評価が行われている22種40資源のうち、資源量も漁獲の強さも共に適切な状態にあるものは4割にとどまる。
残りの6割は、資源量と漁獲の強さのいずれか、あるいはその双方の点で「乱獲」と定義される状態にある。ハタハタの事例を繰り返さないためにも、予防的アプローチに基づく資源管理が今まさに必要とされている。
