乗り越えるべき4つの壁
まず第1に、この「ハブ」の法的性格である。フィリピンには他の東南アジア諸国と同様、外国資本誘致のための優遇策があり、経済特区において、法人税の減免、関税の免除その他各種インセンティブを付与している。
許認可等のワンストップショッピングが可能となるよう、外国投資のための特別の官庁もある(PEZA)。今回の米比合意はこれと何が違うのか、如何なる製造施設が作られるのか、それは米国企業に限られるのか、他の外国企業も参加できるのか、といった疑問が浮かぶ。
ヘルバーグ国務次官によれば、米国大使館と同様の外交免除が与えられ、米国の法律の下で運営されるというが、帝国主義時代の租界ではあるまいし、現代世界でそのような「治外法権」が認められるとは信じ難い。
第2に、世界貿易機関(WTO)協定との整合性である。途上国による外資優遇策はWTO上のS&D(Special and differential treatment)として認められるケースが通常であるが、そこには一定の制約がある。
特にWTOの基本原則の一つである最恵国待遇の縛りはきつく、関税、サービス、補助金、投資等各種規則の中で最恵国待遇例外が認められるのは極めて難しい。したがって国務省が言う完全に米国の法の下にある「ハブ」がWTO協定と整合的であると証明するのは極めて難しいと思われる。
第3に、米比合意は「フィリピンの優秀な労働力、鉱物資源、エネルギー資源、インド太平洋貿易の戦略的位置に対する「強化されたアクセス」」を含む由であるが、これが何を意味するのか。排他的な米国のアクセスを保証するものであれば問題が生じよう。
最後にフィリピンはサービス産業中心の経済であり(国内総生産〈GDP〉の約6割)、製造業についてはタイやベトナムといった諸国に比べて見劣りがする。確かにニッケル等鉱物の主要産地であるし、電子・半導体産業はフィリピンの輸出額の6割近くを占める。ただ前者は記事にもあるように原材料としての輸出が多く、後者については組み立て・検査・パッケージング(ATP)が中心であり、よりバリューチェーン上位の半導体ウエハー(集積回路の材料)の製造は未発達と言われている。
さらに製造業全般の弱さはフィリピンではいまだに稼働する高炉が一つもないとの事実に如実に現れている。したがって今回の米比合意が適用される製造業の範囲には限界があると思われる。

