もちろん、これがすべてのインド人に当てはまるわけではなく、人や家族によって大きく異なる。だが、「飲んでいること自体を後ろめたく思っていない」が「家族や親戚には見せたくない」という構造は、複数のインタビューに共通して現れたパターンだ。
特に女性の場合、そのタブーはさらに強まる。先述の男性(37歳)は「お酒を飲む女性は『自由を与えられすぎた』と見られます。インドの女性が酒を飲むのは、良いこととは見られません」と語る。
都市部で広がる「飲む文化」
「飲酒はタブー」という見方も根強くある一方、変化も見られるようだ。デリー在住の女性(33歳)はこう語る。「昔は、家族が女性の飲酒を良しとしませんでした。でも大都市では、考え方は変わってきています。今はだんだんとOKという認識になってきています」
筆者が実施したインタビューでは、例えば以下のような発言も聞かれた。
「グルガオン、デリー、ノイダ、ファリーダーバードでは、Z世代や企業で働く若者たちは比較的お酒を飲む習慣があります。かなり多くの人が飲んでいると感じます」(ファーリダバード在住・37歳・男性)
「裕福層やアッパーミドルの家では、自宅にホームバーや酒の飾り棚があることもあります」(デリー在住・43歳・男性)
また、飲酒が社交の潤滑油として積極的に評価される声も増えてきている。
「お酒があることで会話がより自由になり、自分を開放できる。会社のオフィスパーティでも、お酒が入ることでチームメンバーとより打ち解けられた」「新しい友人が来た時に場の空気を和らげるのにも役立つ」などという声も、Z世代から聞かれた。
サントリーが狙う「マスプレミアム層」
こうした変化をいち早く察知した日本企業がある。サントリーホールディングスだ。
同社は19年12月、インド市場向けに専用開発したウイスキー「Oaksmith(オークスミス)」を現地法人のSuntory Global Spirits(旧Beam Suntory)から発売した。
世界的チーフブレンダーの福與伸二氏が手がけ、スコッチモルトとアメリカンバーボンをジャパニーズブレンディングの技術で仕上げたインド専用品だ。
狙いは超プレミアム層ではない。750mlでOaksmith Internationalが600~1200ルピー(約1000~2000円)、Oaksmith Goldが800~1600ルピー(約1400~2700円インドは酒税が州ごとに大きく異なるため、購入する州によって実売価格は変わる)という手が届く価格帯に設定し、「マスプレミアム」のポジションを取った。
「すべての人にとって選ばれるブランドでありながら、インドの消費者にプレミアムな体験を提供し続けること」。Beam Suntory India マネージング・ディレクターのNeeraj Kumar氏は米国で開催された国際的な飲料品コンペティション「SIP Awards」を受賞した際にコメントしており、立ち位置を端的に表している(参考)。
発売から数カ月で10万0000ケースを販売。25年7月にはやや上の価格帯(1100〜2100ルピー・約1900~3500円)に位置するOaksmith Nagomiを追加した。
ここに、インド市場の本質的なチャンスが見える。
インドのアルコール消費は、量の拡大から「より良いものを飲む」方向へと移行しつつある。IWSRによれば、25年上半期のインドの飲料アルコール全体の量は7%成長したのに対し、プレミアム以上の価格帯はそれを上回る8%の成長を見せた(参考)。
Oaksmithが開拓したのは、この「少し良いものを飲みたい」という大多数の都市層だ。日本ブランドにとっての余地は、山崎や響などの超高級価格帯だけでなく、品質とストーリーで納得感を作れるこの広大な中間層にも広がっている。
