では、100ミリの雨が降るなら、下水道も100ミリ対応にすればよいかといえば、そう単純ではない。すべての市街地を100ミリ、120ミリの雨に対応できるよう造り替えるには、多額の費用と長い工期が必要になる。都市の地下には道路、地下鉄、水道、ガス、電力、通信ケーブルなどが張り巡らされ、新たな施設を造る空間は限定的だ。
さらに、雨水は最終的に河川や水路へ排水される。下水道の能力だけ高めても、排水先の河川の流下能力や水位がボトルネックになれば、市街地から水を流せなくなる。
ただし、計画雨量を超えたからといって、超えた分がそのまま地上にあふれるわけではない。実際にどこで、どの程度浸水するかは、雨の降り方や地形、排水施設、河川の水位などによって変わる。
それでも、下水道などの排水能力には限界がある。重要なのは、気候変動に合わせて排水能力をどこまで高めるのか。同時に、その能力を超える雨を街や流域でどう受け止めるのか、という2つの視点だ。
下水道を超える雨をどこで受け止めるか
下水道の能力を超える雨は、街や流域全体で可能な限り受け止める。都市では、雨を「流す、貯める、染み込ませる、ゆっくり流す」という方法を組み合わせる。
例えば、公園や校庭などに一時的に雨水を貯める。住宅や公共施設に雨水タンクを設ける。適した場所には雨庭や透水性舗装を配置し、地中への浸透を促す。
しかし、それでも受け止めきれない雨はある。その場合には、あふれた水をどこへ導き、被害をどう小さくするかまで考える必要がある。公園や広場などを活用して水を一時的に受け止め、住宅や地下空間、病院、電気設備などに水が集中するのをできるだけ避ける。つまり、都市の水害対策を三段階で考える。
①一定規模の雨は、下水道などで流す
②同時に雨を街や流域で貯めたり、染み込ませたりして受け止める
③それでもあふれる雨は、人命や重要施設への被害をできるだけ小さくする
「浸水をゼロにする」だけではなく、浸水が起きても被害を大きくしない。そうした都市をつくることが重要になる。
「早く流す」だけでなく、流域で時間を稼ぐ
さらに、都市だけでなく流域全体を見る必要がある。千葉県の印旛沼流域には、「谷津」と呼ばれる谷状の地形が数多くある。自然に近い谷津や湿地では、降った雨の一部が一時的に貯留・浸透し、時間をかけて下流へ流れていく。一方、都市化によって地表が舗装されたり、排水路が直線化されたりすると、雨水が短時間で下流へ到達しやすくなる場合がある。
上流で水を早く排出することは、その場所だけを見れば合理的だ。しかし流域全体では、水が下流へ集中する時間を早める可能性がある。
治水では、水の量だけでなく、「いつ下流へ到達するか」も重要なのだ。流域全体で雨をどう受け止めるかを考える上で、森林、農地、谷津、湿地などの役割を改めて評価する必要がある。
