2024年12月5日(木)

対談

2015年5月28日

戦後モデルの完成と飽和

小川:日本経済は先進国の中でも一番早く成熟のピークを迎えてしまって、バブル崩壊は1991年だけど、いろいろな業界がピークを迎えたのは95~98年くらいなんです。ピークアウトが始まったときにマクドナルドはディスカウントを始めてしまった。違う準備する必要があったんでしょうね。

 実際に、藤田田さんは回転寿司チェーンの隆盛を見越していました。だからマクドナルドが別業態で寿司屋を展開しても良かったんです。吉野家がはなまるうどんや京樽を子会社にしたように、多業態展開すべきだった。マーケティングの分野では「なぜアメリカの鉄道会社は衰退したのか」ということがよくいわれていて、簡単にいえば飛行機を飛ばしたり、高速道路を走る貨物運輸をやれば良かったんです。技術は会社ごとほかから買ってくればいい。

 ロードサイドのマクドナルドの隣には、たいていうどん屋や牛丼屋がありますよ、それ全部をやっても良かったんです。藤田さんも多業種の必要を感じてトイザらスをやったわけだけど、寿司屋をやれば国産食材を安定して採り入れるチャネルができた。ハンバーガーとポテトにこだわっていたらビジネスも技術も広がらないし、従業員も新しい学習ができない。

久松:米の単作農家と似ているかも知れない。

小川:野菜作ってみたり小麦作ってみたりすれば、その技術が米にも転用できるじゃないですか。

久松:なるほど。

小川:他業界で学んだことが転用できる。引出しは多い方がいろいろなことを思いつくし、アナロジーで考えられますから。マーケットも見えるんですよ。米だって鮮度が大きい要因であることを、みんな知りつつありますよね。モミの状態で精米機とセットで売る店があってもいい。

久松:大量生産品から嗜好品化していくなかで、本当にそうなってくると思いますね。そこはけっこう危険な話で、野菜のおいしさが「栽培時期(旬)・品種・鮮度で8割方決まる」ことは『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)で書きましたけど、米も◯◯産であることよりも、精米してすぐに炊くことのほうが美味しさに寄与すると明らかになると、フードビジネスから国策まで揺るがしかねない(笑)。

小川:最近、ずっと国内食品メーカーのトップだったキリンがサントリーに抜かれてしまった原因についてのインタビューを受けたんですけど、やっぱり同じことなんです。開発してきた研究種を売ってしまったり、世界的な遺伝子の研究施設を廃止してしまったりと、将来の芽を摘んでしまった。サントリーにも危機はあったけど、将来の芽は売り払わずにじっと耐えてきた。マクドナルドで働くことに夢がなくなったと同じように、キリンでも夢が持てなくなった。会社って、悪い時ほど夢が必要なんですよ。多少お金があっても、夢がなければ先がない。農業だってそうなんじゃないですか。

※キリン低迷の原因は「ヒット不足」ではない 『マクドナルド 失敗の本質』の著者に聞いた首位陥落の真因(前編)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20150420/280160/
エリートぞろいで夢や理想が消えたキリン(後篇)
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20150420/280161/

久松:いや、本当にそうなんですよ。

小川:「農業やっていて何が楽しいの」って話になってしまう。ただ働いているだけじゃ面白くないもんね。

久松:最近、「久松農園で働きたい」って人がいっぱい来る。来るんだけど、売り上げ3000万円の小さな会社ですよ。ウチのようなところにしか夢がなくなったら、終わりですよ。

後篇へ続く)

小川孔輔(おがわ・こうすけ)
法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授。1951年秋田県生まれ。日本マーケティング・サイエンス学会代表理事。JCSI(日本版顧客満足度指数)開発主査。著書に『しまむらとヤオコー』(小学館)、『マーケティング入門』(日本経済新聞出版社)など。本年2月刊行『マクドナルド 失敗の本質 賞味期限切れのビジネスモデル』(東洋経済新報社)ではマクドナルドの収益を支えてきた2つの事業モデルのどちらもが「賞味期限切れ」に瀕しつつあることを指摘し、さまざまな反響を呼んだ。

久松達央(ひさまつ・たつおう)
(株)久松農園 代表取締役。1970年茨城県生まれ。慶応義塾大学経済学部卒業後、帝人(株)入社。1998年農業研修を経て、独立就農。現在は7名のスタッフと共に年間50品目以上の旬の有機野菜を栽培し、契約消費者と都内の飲食店に直接販売。SNSの活用や、栽培管理にクラウドを採り入れる様子は最新刊の『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)に詳しい。自治体や小売店と連携し、補助金に頼らないで生き残れる小規模独立型の農業者の育成に力を入れている。他の著書に『キレイゴトぬきの農業論』(新潮新書)がある。
 

  
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