2024年12月19日(木)

オトナの教養 週末の一冊

2015年7月30日

 ペーボがいみじくも述懐するように、誠実で厳密でさえあれば必ず報われる、というものでもない。そんな科学の世界の隠された一面も、本書には赤裸々に描かれる。
「ズルをせず、正直に並んでいた」(更科功氏の解説)ペーボは、ネアンデルタール人のゲノム解読という「分子古生物学における最大のレース」で大逆転できるのか?

 ライバルたちを追い抜き、ついにトップに立つまでの30年におよぶ軌跡を、プライベートな話もまじえ情感豊かに語ったのが、本書である。

古代エジプト人からネアンデルタール人へ

 スヴァンテ・ペーボは、スウェーデン生まれ。ウプサラ大学時代に、幼少時から憬れていたエジプト学と分子生物学を結びつけることを思いつき、ミイラのDNA抽出に挑戦した。もっとも、後にそのDNAは混入した現代人のものだったとわかる。

 DNA自体、保存されにくいうえに、化石の中にあるDNAのほとんどは、後の時代に混入したほかの生物のDNAなのだ。「汚染」を除くには、専用のクリーンルームで厳密に抽出するだけでは不十分で、いくつもの工夫をして関係ないDNAを除かなくてはならない。

 焦燥感を抱きつつ、立ちはだかる壁を乗り越えていく研究者たちの試行錯誤の過程は、モンスターゲームさながら、ハラハラどきどきする。

 やがてチームは、「アイスマン」などのDNA抽出をへて、ネアンデルタール人の研究にたどり着く。

 化石を観察してもわからなかったネアンデルタール人と我々ホモ・サピエンスとの関係。その謎を、ペーボたちはゲノムを比べることによって解き明かした。

 ネアンデルタール人のDNAは、非アフリカ人のホモ・サピエンス、すなわち日本人を含むアフリカ以外の現生人類すべてに数パーセント共有されていた。

 これにより、約5万年前にアフリカを出た現生人類は、中東でネアンデルタール人の遺伝子をとりこんで(交配して)、世界中に広がっていったことの証拠が示されたのである。


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