もう一つの原因は、景気の減速だ。昨年の6、7月には、販売台数が前年割れした。これを受けて急遽、10月から1600cc以下のクラスの乗用車取得税を半分にする減税が実施された。足元では販売が持ち直しているが、同様の減税措置はリーマンショック後の12年にも実施され、減税期間が終わると販売の伸び率が落ちた。今回も「減税による販売増は需要の先食いではないか」(業界関係者)とも指摘されている。さらに、中国全体の自動車生産能力は5000万台にも上るとされ、「過剰生産」(同)の懸念もある。
若者でにぎわう現地ディーラー
ところが12月末、現地のディーラーを訪問すると、店内は平日にもかかわらず、20代、30代の若者で溢れかえっていた。20代の女性は、「(中国の女性にとって)結婚相手は、家と自動車を持っていることが必須です」と教えてくれた。大卒の初任給が日本円で10万円程度という中国の若者にとって、自動車は安い買い物とは言えないが、「一人っ子政策のおかげで、住宅、自動車の購入資金は両親、祖父母が持つのが一般的」なのだという。
東風日産の販売ディーラーの曽セン烽店長は「店がオープンした03年は年間200台だったが、いまは2500台と、一貫して右肩上がりで販売を増やしている。11月は減税効果もあって360台売れて月間で一番だった。16年は新車が多く出るので年間3000台が目標」と強気だ。「日系ブランドは品質が良いので人気があり、ライバルはホンダだ。ハイブリッド車(HV)は様子見の客が多いが、これからはトレンドになるのでは」と期待する。
広州地区には日系の自動車メーカーの現地進出に伴い、1990年代以降に部品メーカーも競うようにして進出し、「汽車城」と呼ばれる部品メーカーの集積基地ができている。東風日産などにコンプレッサーや電子部品などを供給しているカルソニックカンセイ(さいたま市)。中国全体のオペレーションを担う中国投資有限公司(上海)の古川浩治董事長は「自動車を購入する層が以前は大企業の部長クラスだったが、いまは中間層が買えるようになった。近い将来、3000万台までは行くだろう」と見ている。
また「中国での生産はわが社全体の売り上げの約20%を占め、その比率は年々上がっており、北米(メキシコを含む)と並ぶ重要な生産拠点だ」と中国の重要性を強調する。「これまでのような年10%以上の伸びはなくとも、2000万台市場では5%の伸びでも100万台。こんな規模の市場は世界で唯一だ」と、関係者が口をそろえるように、自動車メーカーにとって中国市場は欠かすことのできない存在になっている。
トヨタ系のシンクタンク現代文化研究所の呉保寧・上席主任研究員は「自動車生産能力の過剰だという議論はあるが、主に軽バンと商用車が過剰であり、乗用車は正常な稼働水準にある。むしろ合弁企業の生産能力は不足している」と分析する。さらに「年間の新車需要は2500万台規模になり、今後最大で3500万台以上に到達する可能性がある」と拡大を見込んでいる。