2024年6月19日(水)

オトナの教養 週末の一冊

2016年3月13日

ーーここまでの話を聞き現在の自衛隊員の状況というのはかなり厳しいなと。たとえば、貧しい家庭に生まれたばかりに、命の危険まで晒して入隊しなければならない状況もあると。こういった状況を改善する手立てについてはどうお考えですか?

布施 貧困とは「機会と選択の欠如」といわれます。お金がないから、大学に進学できない、病気になっても医療を受けられない。そういう若者たちに進学や医療の機会を提供して兵士を獲得しているのがアメリカの「経済的徴兵制」です。もし、アメリカの大学の学費が無料で、日本のような国民皆保険制度があれば、「経済的徴兵制」は機能しないでしょう。日本で状況を改善する手立ての一つは、お金の心配をせずに誰でも大学に進学できるように給付型の奨学金制度を整備するとか、最低賃金を上げるなどして、一生懸命働いても生活が豊かにならない非正規雇用の「ワーキングプア」の問題を改善することです。自衛隊に入るしか、大学に進学したり生活を安定させる選択肢がないという社会状況をつくらないことです。

 私は、自衛隊が若者たちに様々な機会を提供すること自体が悪いことだとは思っていません。他に選択肢がないか、あっても非常に限られていることが問題なのです。

低所得者だけが担わされる戦争のリスク

 それと、「経済的徴兵制」の問題は、まさに現在のアメリカがそうであるように、国家の意思で行なわれる戦争のリスクを低所得者層だけが担わされ、実際に命を失うということです。

 専守防衛の原則の下では、外国の侵略を受けた際に前線で戦うのは自衛隊ですが、この狭い国土で危険は国民全体にふりかかります。しかし、いま安倍政権が自衛隊にやらせようとしているのは、国連PKOでの治安維持活動や海外でアメリカの軍事行動に協力することです。しかも、それらは海外での国益追求や多国籍企業の経済活動の自由を確保するためであったりするわけです。もちろん「国益追求」や企業の経済活動も大事ですが、そのために貧しい若者の命を犠牲にしてよいということにはならないはずです。それを認めることは、社会的な不公正を容認することです。くり返しになりますが、経済格差の中で貧困層の若者たちだけが国が起こす戦争のリスクを負わされる社会的不公正こそが問題なのです。

 

ーー最後に人員面から見た今後の自衛隊についてどうお考えですか?

布施 安保法制に加え、このまま少子化が進めば将来隊員を確保できなくなるでしょう。だからこそ、アメリカのような経済的徴兵制に日本もなっていく可能性が高いのではないかと本書では言及しました。しかし、自衛官の待遇を良くすれば集まるという保証もないわけです。僕は、アフガニスタンに派遣したドイツ軍のようにたくさんの「戦死者」を自衛隊が出した場合、おそらく待遇を良くしても集まらないのではないかと思います。そうなった時に、自衛隊の本来の任務である国防や災害派遣といった「国民を守る」仕事まで成り立たなくなってしまう。

 自衛隊は米ソ冷戦が終わった1990年代初め以降、海外派遣など任務はどんどん増える一方ですが、人員は減らされてきました。現場ではすでに、人員不足とオーバーワークで隊員はヒーヒー言っています。その上、安保法制でさらに厳しい任務が増えれば「戦死者が出る前に過労死が続出する」と、ある隊員は悲鳴をあげていました。さらに、これからはメンタルヘルスの問題も多くなるでしょう。そうすると、自衛隊にとって一番重要な「日本防衛」という任務が崩壊していく可能性すらあると思っています。安倍首相は安保法制で「隙のない防衛態勢を構築する」と言っていますが、人的な面から現実を直視すれば、逆に防衛基盤を崩壊させる危険性があります。自衛隊の海外での活動を広げようとしている人達にはそこのところを考えて欲しいと思っています。

  
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