また、高値でしかシラスが買えない状況をつくると、「購買力のある巨大な養鰻業者以外は購入できず、寡占化を進めることができる」(養鰻業者)という面もある。この影響は日本にとどまらない。「約10年前、台湾では1700社ほどの養鰻業者がいましたが、現在では1100社ほどに減っています。実際にウナギを取り扱っている企業となると、さらにその半分ほどです」(台湾区鰻魚発展基金会の郭瓊英元董事長)という。養鰻業者の数が減っている要因は他にもあるというが、なかでもシラス価格の高騰は大きな要因だという。
また、シラス価格の上昇は、最終的には消費者に価格転嫁される。特に「新仔(しんこ)」と呼ばれるシラスから半年ほどで出荷サイズに育てたウナギは人気があるため、価格転嫁しやすい。
だが、とある老舗ウナギ屋の店主は「日本の新仔幻想はくだらない。半年ほどで急に太らせた、いわば肥満児のウナギをありがたがって食べているだけ。正直ウナギのレベルとしては高くないので、ウチでは絶対に使わない。タダでもらっても使わない」と話す。
例年、土用の丑の日が近付けば、「今年もウナギ屋には行列ができています」「このスーパーではウナギが安値で購入できます」という食欲をそそる平和なニュースが流れる。だが、その舞台裏では魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)する、ドロドロとした世界が広がっているのだ。
ウナギの問題は密漁や密輸入といった違法行為だけではない。日本人はこれまで世界のウナギを食い尽くしてきた。日本や台湾、中国、韓国など東アジアに生息しているニホンウナギは14年にIUCN(国際自然保護連合)によって、「近い将来における野生での絶滅の危険性が高い」とされる絶滅危惧IB類に指定された。
護岸工事や堰(せき)の設置などといった環境要因もあるとはいえ、これまでシラスを採れるだけ採ってきたことと無縁ではないだろう。
このニホンウナギだけでなく、ヨーロッパウナギ、ビカーラ種などもそれぞれ絶滅危惧IA類、準絶滅危惧に指定されているが、これも日本人の「ウナギ爆食」と無縁ではない。日本の商社が世界のウナギをかき集め、それを日本人が食べ続けることで、資源量を大幅に減らしてきたのだ。