こうした「こだわり」の謎を解き明かすため、長崎市長に取材を申し込んだが、業務で時間がとれないことを理由に断られてしまった。質問状への回答も難しいということであった。代わりに長崎市のMICE事業担当部署である文化観光部交流拡大推進室の牧島昌博室長に取材を行った。
「まだ事業が決定したわけではないので、何とも言えないですが」と前置きしたうえで、「現在の施設は、稼働率こそ高いものの、3000人規模の学会などになると収容人数の関係で取り逃しているのが現状です。駅西側エリアの土地は購入したので、今後そこにどのような施設をつくるのか決めていく予定です」。
巨大なMICE施設の建設にこだわる理由については、「地元経済界からの要望があったと聞いている」と話す。
施設利用者数見込み、消費効果、経済波及効果などについては「シンクながさき」というシンクタンクが作成したという。年間の施設利用者見込みは約59万人としているが、シンクながさきの役員名簿を見ると、地元経済界の重役たちが名を連ねていた。
「私はMICE施設反対の急先鋒なんです」と話す平野剛市議会議員に、長崎駅西側用地での交流拠点施設の建設効果、収支見込などについて質問すると、「市が出したデータはデタラメだった。年間2700万円の黒字見込みとし、市長が市内各所で説明に回ったが、そのデータはあくまで運営部分のみの内容で、建設費用(約137億円)などは含まれていなかったのです。その後、そうしたコストも含めて再度収支見込を出させたところ、年間約3億4000万円の赤字という結果が出ました。これに用地取得費用を含めると、年間で約5億円の赤字となったのです」と教えてくれた。
さらに「そもそも収支見込を作成する際に使用している施設利用者見込数の想定がおかしすぎます。年間59万人と想定していますが、この数値は、福岡のMICE施設の年間利用者数をもとに出した数値であり、根拠が不明確です。実現可能な数値かも極めてあやしいです」と続けた。
98年~10年に長崎県知事を務めた金子原二郎参議院議員も「巨大なMICE施設が建設されると、その分これまで使用されてきたホテルや結婚式場の会議室などが利用されなくなる負の面も考えられます」と、計画について疑問を呈す。ただ「結局用地も取得したので、このまま施設建設へ向けて突き進んでいくはずです」と今後の見込みについて話した。