「尖閣周辺に限らず、石垣島の南側でも国籍不明の不審船はよく見かける。夜なのに電気がまったくついていなかったりする」という。リゾート地のイメージが強い石垣島だが、あらためて国境防衛の最前線の地であることを感じさせる。
漁港の隣に目を向けると、海上保安庁の巡視船が所狭しと並んでいた。尖閣諸島を巡る摩擦が本格化して以来、石垣島に常駐する巡視船が増え、停泊スペースが不足したことから、桟橋も新たに建設された。10年に中国漁船に衝突された「みずき」の姿も見えた。
この石垣島も与那国島同様、すんなり自衛隊基地が配備されることはない。基地予定地といわれるエリアに隣接する開南、於茂登、嵩田の3地区は、今年に入ってそれぞれ総会を開き、反対の立場を表明した。
基地予定地を通る県道87号線を車で走っていると「自衛隊配備断固反対」の看板が目に飛び込んできたため、車を止めて、パイナップル畑で作業をしていた川平重治氏に話を聞いた。川平氏は開南地区の前自治会長で反対運動を展開する中心人物の一人である。
「反対の最大の理由は騒音。ここは市街地から離れた静かな集落だが、基地ができるとヘリやトラックの音に悩まされることになる。徹底的に戦っていく」と鼻息は荒い。
「反対運動を行った経験はないので手探り状態だが、地元の3地区以外の集落や他の組織とも連携していく」と続ける。始まったばかりの反対運動だが、今後島外からの「応援」も加わり、戦いが本格化していくことが予想される。地元紙・八重山日報の仲新城誠編集長も「基地誘致の是非が2年後の市長選の争点になる可能性は高い」と指摘する。
膨張する中国に対抗するために必要な南西シフトだが、その実現は容易ではない。与那国島の反対派議員が話していたように、与那国島における「失敗」の教訓をいかして、反対派は次なる戦いを挑もうとしている。
石垣島の人口は4万9000人。1700人の与那国島とは文字通りケタ違いで、利害関係者も多いことから話が簡単にまとまることはないだろう。与那国島で発生した混乱が、スケールアップして石垣島に上陸する──。そんな現実が訪れようとしている。
■特集「国境騒然」
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・ガス田に東シナ海の〝目〟を設置した中国
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・図解 海に囲まれた日本 国境付近で絶えぬ争い
・現地ルポ 自衛隊基地配備に揺れた与那国島 次なる「震源地」石垣島の〝騒乱〟
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