物語の冒頭で、亜紀の部屋のすぐ階上の部屋に住む、ひとり暮らしの佐々木弓子(松嶋菜々子)が、血にまみれた風呂場を洗い流そうとしているシーンがある。
近隣で発生している3人の幼児誘拐事件の犯人が、弓子なのだろうか。
連続誘拐の被害者の母親には、許されない事情があったことが明らかになる。第1の誘拐事件では、母親は子どもをネグレクト(無視)していた。次の誘拐では、パチンコをしていた。最後は不倫をしているすきに誘拐が起きている。「ハーメルンの笛吹男」の寓話(ぐうわ)のように、子どもたちが次々と姿を消しているのである。
警視庁捜査一課の特殊捜査班の荒又秀実(光石研)は、次の事件を恐れて犯人を懸命に追っている。
サスペンス要素を高める巧みなカメラワーク
亜紀(菅野美穂)はクリーニング屋の父親が死んだあと、母親の三田久美子(烏丸せつこ)が男を作って家から逃げ出した経験の持ち主である。タワマンを訪れた母親に金を握らせて、「もうこないでくれ」と頼む。
「女たちは嘘をつく。ささやかな見栄のために。愛する我が子を守るために。時には秘密の恋のために。嘘からうまれたほころびを別の嘘でつくろいながら、女たちは闇のなかへ。誰の一生にもすぐそばに落とし穴が口を開けている」
物語の語りは、それがタワマンの住民であり、いずれは亜紀の運命にものしかかってくるのではないか、という暗い影を感じさせる。
住民たちはそれぞれ、偽りの人生をかかえているようにみえる。最上階50階の阿相寛子(横山めぐみ)は夜、エステのマッサージを受けている。45階の橋口梨乃(堀内敬子)は夫婦ともにハーバード大学卒を誇って、子どもの勉強を厳しく見ている。2階の尾野綾香(ホラン千秋)は、宅配業者の青年と不倫している写真を住民や夫にみられて、夫が家を出て子どもとふたりである。
亜紀の部屋では、仕事が忙しい夫を待たずに、長男の高校生・和樹(佐野勇斗)と長女の幼稚園児・そら(稲垣来泉)と夕食をとっている。
カメラはタワマンの上下の階を行き来するように、映像を映し出す。ドラマは二重螺旋(らせん)で登場人物たちも多い。巧みなカメラワークが、サスペンスとしてのこの作品を支えている。