2022年12月5日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2018年3月23日

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 トランプ政権による鉄鋼・アルミへの輸入関税は、1962 年通商拡大法232 条(安全保障を根拠とする輸入制限)を根拠としている。国家安全保障を理由とした自由貿易の例外措置は、GATT第21条でも認められている。したがって、国家安全保障を理由とした措置が全く許されないというわけではない。しかし、上記発表の通り、トランプ大統領は、安価な鉄鋼・アルミの輸入が米国の両産業をダメにし国家安全保障に脅威を与える恐れがある、としているが、牽強付会であり、正当化の根拠とはなり得ないであろう。しかも、マティス国防長官は、ロス商務長官に送った調査メモで、米軍が必要とする鉄鋼・アルミは米国の生産量の3%程度であるから、国防総省の調達にとって懸念はない、との趣旨を伝達している。

 また、トランプは、中国の不公正な貿易を常々槍玉に挙げてきたが、米国の中国からの鉄鋼とアルミの輸入の割合は小さいものに過ぎない(カナダ26%、EU16%に対し、中国6%)。既にアンチダンピング等の措置により縮小しているためである。

 トランプ政権による当初の発表は、適用に除外はないというものであり、世界中に衝撃を与え、西側も含めた強い反発を招いた。報復が報復を呼び、貿易戦争に発展することが懸念される。さらに、同盟国との関係悪化の可能性が強く憂慮された。ただ、実際に署名された大統領布告では、米国の重要な同盟国への適用は免除され得ることとなった。関税については時間をかけて協議することになろう。同盟国との関係悪化という最悪の事態は、回避し得る可能性が出てきた。NAFTA加盟国である、カナダとメキシコについては適用を除外するという。なお、カナダからの輸入割合は最大である。

 上記発表は、中国の不公正な貿易慣行への対応を強調して締めくくっている。最大の標的はあくまでも中国であるということを示唆しているようだ。確かに、中国による国営企業優遇や知的財産権の侵害などは看過し得ない。しかし、こうしたことへの対応は、保護主義的・一方的対応ではなく、トランプが毛嫌いしているWTOを中核とする多国間の枠組みで取り組むのが原則であるべきであろう。2012年に、日本、米国、EUが協調して、中国のレアアース輸出制限をWTOに提訴し、2014年に勝訴した件を想起すべきである。

 今回の関税の件では、自由貿易派のコーン国家経済会議委員長が、保護貿易派のロス商務長官、ナバロ国家通商会議議長と対立して辞任した。当初の発表よりは後退したとはいえ、トランプの通商政策が保護主義を基調とするものであることに、いささかの揺るぎもないことが明確になったと言わざるを得ない。

  
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