オトナの教養 週末の一冊

2018年3月30日

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本多カツヒロ (ほんだ・かつひろ)

ライター

1977年横浜生まれ。2009年よりフリーランスライターとして活動。政治、経済から社会問題まで幅広くカバーし、主に研究者や学者などのインタビュー記事を執筆。現在、日刊サイゾーなどに執筆中。ブログ:http://golazo-sala.cocolog-nifty.com/pinga/

――ISに代表される反欧米的な活動組織の目的というのは、カリフ制のようなイスラーム主義を取り戻すことなのでしょうか?

酒井:70年代に台頭したイスラーム主義の代表的な国はイランで、その指導者であるルーホッラー・ホメイニ師のような考え方です。欧米でもソ連型の社会主義でもない、独自のイスラームに基づいた国づくりを実現しました。トルコもまた、エルドアン政権のもとでイスラーム化を進めた国です。

 2010年から2012年に、アラブの春と言われるデモによって中東の国々で政権転覆が相次ぎましたが、現在その国々を見るとすべてイスラーム主義を掲げる政党が政権の座についています。ただし、それらの政党はすべて中道派で、ISのようにラディカルなイスラーム主義を掲げ活動する組織とはかなり違います。

――イスラーム主義を掲げ活動する組織に対し、国民はどう思っているのでしょうか?

酒井:中道な国々や、過激な活動を行う組織にしても一番の強みは、慈善事業や福祉事業を地元の人たちに対し行う能力がある点です。日本だとあまりリアリティを感じづらいかもしれませんが、キリスト社会では災害などが起こると教会が中心となり、慈善事業を行います。イスラーム社会も同様で、どの宗教組織や宗教政党も過激な行動を取る一方で、社会部門担当が炊き出しや就職の世話、交通整理、建設事業まで行える能力を有しています。このことはヒッズブラーなど、紛争地のイスラーム主義全般に言えることです。

――ISもそういった活動をしているのでしょうか?

酒井:たとえばイラクのモスルでは、ISも支配対象の社会生活が滞らないように公務員を働かせ、給与を支払っていました。金貨もつくり払っていたようです。ISは制圧した地域を力で押さえつけていた部分はありますが、他方住民はおとなしく言うことを聞いて生活していれば生きていける、という状態ではあったようです。

――イスラーム教という存在が、イスラーム教徒の人たちにとってどんなものかいまいちピンとこないのですが。

酒井:信仰心という意味で言えば、これは本当に千差万別です。日本人並みに信仰心がまったくない人もいます。

 イスラーム教の原理原則に従えば、父親がイスラーム教徒ならば子ども本人がどう考えようが、自動的にイスラーム教徒となり、しかも背教することができません。たとえば、オバマ前アメリカ大統領。彼の父親は、ケニア人でイスラーム教徒ですから、原理原則に従えば彼はイスラーム教徒です。しかし、彼はアメリカの慣習に従って、キリスト教へ改宗したので、彼がイスラーム教徒というバッシングはあてはまりません。ただし厳格なイスラーム法学者であれば、イスラーム教徒として生まれたにもかかわらず、改宗することはあり得ないと指摘するかもしれません。ただし、その原理原則を振り回して「不信心者で死刑に値する」と言うことに果たして意味があるのか……となりますよね。イスラーム法の判断も状況に応じてされます。

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