――文脈を解説した本が増えたのには理由があるのでしょうか?
秋田:20世紀前半に、文脈よりも作品の構図やデザインの理解に偏ってしまった時期がありました。その反動で現在は文脈を大事にしようという趣旨の本が増えたのではないかと思います。
――本書では、画面内の流れを示すリーディングライン、バランスの取り方、比例を使った配置などの構造を理解するための知識が書かれていますが、そもそも画家自身は構造を意識して描くものなのでしょうか?
秋田:意識して描いているのかどうかインタビューしたことがないので断言はできませんが、意識しているのを明確に表明している画家やイラストレーターはいます。一方で、尊敬する画家の絵を見ているうちに自身の作品にもその構造が無自覚に反映されているタイプもいると思います。
――昔はともあれ、現在では情報が溢れ、教育システムが確立され、構図などの知識を意識しがちになりそうですが。
秋田:それが、美術に携わる人でも、わりと習っていないのが現実です。私もアメリカの大学で美術史を学びましたが、実技のなかで特に習わなかったですね。目で見て分析し、手で覚えろというところがありました。
キュビズムの画家、アンドレ・ロートの弟子で、1920年代に活躍した写真家のアンリ・カルティエ・ブレッソンは、絵画の複製に線を引き、構造を分析するトレーニングをロートから相当受けたようです。ですからカルティエ・ブレッソンの写真は構造がしっかりしています。
しかし、このように構造をはじめから教えてしまうと作品が型にはまってしまうというデメリットもあります。また、構造というルールを守ることが目的化してしまうので、教えるタイミングも重要になります。
たとえば、構造を子どもに教えたら良いじゃないかというご指摘を受けます。そこは悩ましいところで、子どもには無理に教える必要はないと思うのです。大人になり、絵の見方を知りたくなったときに学べば良いのではないかと思いますね。
――そのような構造というのは、文脈がより重視される現代アートの見方にも通じるのでしょうか?
秋田:あくまで本書で言及している構造などの見方は、四角い画面の中で描かれている作品だけに適用されるものです。1950年頃までは、四角い画面内で完結した作品も多くありましたが、現代アートではそういう枠をはみ出したものがどんどん生れています。また、作品の意味が、見る人の立場や置かれた環境などを意識したものも多く出てきました。そういった文脈によって成り立っている作品に対しては、本書のような見方は適用できず、他の理解の枠組みがあります。それについては、次回以降の本に書くことができればと考えています。
ただ、現在でもアニメーションや映画、映画のポスター、漫画の表紙など四角い画面のなかで表現されている身近な作品には適用することができます。