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WEDGE REPORT

2019年11月19日

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小泉悠 (こいずみ・ゆう)

東京大学先端科学技術研究センター特任助教

1982年生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。民間企業を経た後、2008年から未来工学研究所。09年には外務省国際情報統括官組織で専門分析員を兼任。10年、日露青年交流センターの若手研究者等派遣フェローシップによってモスクワの世界経済・国際関係研究所(IMEMO)に留学。専門は、ロシアの軍事・安全保障政策、軍需産業政策など。著書に軍事大国ロシア』(作品社)、『プーチンの国家戦略』(東京道堂出版)、『「帝国」ロシアの地政学』(東京堂出版)。『ロシアの軍事情報を配信するサイト「World Security Intelligence」(http://wsintell.org/top/)を運営。

ロシアと中国の奇妙な共存関係

 ロシアの中国観についてもう少し言及しておこう。

 一方においては、中国はロシアのパートナーと位置付けられる。衰退が止まらない極東部の振興を図る意味でも、経済制裁と原油安で苦しむ経済を立て直す意味でも、中国はもはやなくてはならない存在となっているためだ。すでに中国はドイツやオランダを凌(しの)ぐロシア最大の貿易相手国の地位を占め、昨年は中露の貿易高が初めて1000億ドルを突破した。また、欧米の制裁がロシアの基幹産業であるエネルギーを狙い撃ちにする中、中国はロシアのエネルギープロジェクトに資金を出してくれる貴重なパートナーでもある。

 他方、中国の人口はロシアの10倍、GDPは8倍、兵力でも2倍の差をつけており、もはや国力の差はあまりにも大きい。西側から孤立する中でロシアが中国との関係を深めようとしても、それは対等な関係たりえず、ジュニア・パートナー(格下のパートナー)としてしか扱われないだろう。政治や経済の面でも中ロは様々な軋轢(あつれき)を抱えているし、「狭間の国々」をはじめとする旧ソ連諸国に中国が進出してくることにもロシアは警戒的だ。

 ただ、それでもロシアは当面、中国との良好な関係を維持する姿勢を示している。仮に中国と決別して西側に接近しても、今度は西側のジュニア・パートナー扱いされるだけだ、冷戦後の30年間がそうだったではないか、というのがロシア側の言い分であろう。しかも中国はロシアが旧ソ連諸国を勢力圏として扱うことに異を唱えず、ロシアや旧ソ連諸国に対して米国のような民主化要求(ロシアはこれを「西側」の内政干渉であるとして強く反発してきた)を突きつけることもない。

 中ロが共通の利益で結ばれた緊密な同盟になることもまた見通しにくいとしても、このユーラシアの二大国は当面、奇妙な共存関係を続けていくのではないだろうか。

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■ポスト冷戦の世界史 激動の国際情勢を見通す
Part 1 世界秩序は「競争的多極化」へ 日本が採るべき進路とは 中西輝政
Part 2   米中二極型システムの危険性 日本は教育投資で人的資本の強化を
             インタビュー ビル・エモット氏 (英『エコノミスト』元編集長)

Part 3   危機を繰り返すEUがしぶとく生き続ける理由  遠藤 乾
Part 4   海洋での権益を拡大させる中国 米軍の接近を阻む「太平洋進出」 飯田将史
Part 5   勢力圏の拡大を目論むロシア 「二重基準」を使い分ける対外戦略 小泉 悠
Part 6   宇宙を巡る米中覇権争い 「見えない攻撃」で増すリスク 村野 将

  
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◆Wedge2019年11月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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