田部康喜のTV読本

2020年4月16日

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田部康喜 (たべ・こうき)

コラムニスト

福島県会津若松市生まれ。幼少時代から大学卒業まで、仙台市で暮らす。朝日新聞記者、朝日ジャーナル編集部員、論説委員などを経て、ソフトバンク広報室長に就任。社内ベンチャーで電子配信会社を設立、取締役会長。2012年春に独立、シンクタンク代表。2015年10月から東日本国際大学客員教授として地域振興政策を研究、同大・地域振興戦略研究所副所長を兼務。

(taa22 / gettyimages)

 NHKスペシャル「新型コロナウイルス瀬戸際の攻防 感染拡大阻止最前線からの報告」(4月11日)は、「“パンデミック”との闘い~感染拡大は封じ込められるか」(3月22日)に続いて、厚生労働省の「クラスター対策班」の科学者たちに密着した、同時進行ドキュメンタリーである。

 クラスター対策班の中心人物のひとりである、数理モデルの第一人者の北海道大学教授の西浦博氏は番組後の4月15日に、対策を全く取らなかった場合の感染重篤患者数と死者の推定数字を明らかにした。感染の拡大に日夜懸命な努力を続ける、科学者たちの危機感を表明した。今回の同時進行ドキュメントの核となる数字が明らかになったことで、番組の価値はさらに高まった。

 安部晋三首相が4月7日に緊急事態宣言を史上初めて発した。東京都の小池百合子知事が3月25日の記者会見において「感染爆発 重大局面」発言をして外出の自粛を訴えた。北海道の鈴木直道知事が2月28日に「緊急事態宣言」を出した。

 こうした政治家がとった行動の背景に、クラスター対策班の分析と助言があった。中国・武漢で発生した新型コロナウイルスの感染の第1波に対して、日本がかろうじて感染者の爆発的な増大つまりオーバーシュートを免れたのは、クラスター対策班の科学者たちの努力によるものである。

 新型コロナウイルスに対する医療や検査体制などに対する、政府の遅れに対する批判の数々も、今回の同時進行ドキュメンタリーによる科学者たちの考察と行動は幾ばくかの回答となるだろう。感染防止の最前線を知らない批判は意味をなさない。

 クラスター対策班が発足したのは、2月25日のことである。リーダーには、東北大学大学院教授の押谷仁氏が就いた。2003年以来、アフリカや東南アジアの感染症に取り組んできた。中国・広東省で発生し、世界に感染を広げたSARS(重症急性呼吸器症候群)においては、WHO(世界保健機関)のSARS対策の指揮を執った。

 リーダーに指名される前、押谷氏は「新型コロナウイルスは、SARSとはまったくことなる。見えないウイルスとの攻防になる」とみていた。SARSは重篤者を隔離すればよかったが、新型コロナウイルスは軽症や無症状であっても、感染者となるからだ。

 押谷氏が直面したのは、他国の感染対策が日本では採用できない、困難な状況だった。まず、武漢のように都市閉鎖が強制的に実行できない。感染者を検出するPCR検査についても、SARSの際に大規模な感染者を出した韓国やシンガポールは大規模な準備体制ができていたが、日本の検査体制は十分ではなかった。最後に、医療体制の不備である。治療に欠かせない人工呼吸器が人口10万人当たり約10台しかなく、先進国のなかで低い水準なので死者がでる可能性が高かった。

 「日本の選択肢として、中国やシンガポールの方式は採れない。新型コロナウイルスの弱点を突かなければならない。考えれば、道は拓ける」と、押谷氏は考えた。

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