2024年11月21日(木)

WEDGE REPORT

2020年5月15日

新政権による債務不履行宣言と大麻の合法化

 この状況に政府はどう反応したのか。

 デモ隊の退陣要求をうけて、ハリリ首相は10月末に辞任を表明した。数ヶ月の空白期間を経て、今年1月にディアブ新内閣が発足した。

 首相の座はレバノンの政治システムに従ってスンニ派から選ばれた(大統領がキリスト教徒、国会議長がシーア派から選ばれる)。

 ディアブ氏はスンニ派であるが、シーア派のヒズボラやキリスト教の自由愛国運動の支持を得ていて、スンニ派政党、未来運動からは支持を得ていない。

 すでに宗派ごとに議席数が決まっているレバノン政治。どの政党や誰と組んで多数派になるかという話し合いで物事が決まる。宗派主義といえども、信仰で政治的立場が決まるわけではないことをよく表している。

 この内閣に対してデモ参加者はディアブ氏が腐敗を終わらせる能力のある人物ではないと反発している。

 発足したディアブ政権が、この経済危機に対して行なったのが2020年3月7日の債務不履行(デフォルト)の宣言だ。つまり国が貸してもらっていたお金を期限通りに返済できないという判断をしたということ。今回、償還期限を迎えた外貨建て国債の額は、12億ドル。

 ディアブ内閣はデフォルトを行う理由を、「国民の基本的なニーズを守るため」と説明した。こうした表現をするのは、新政府は国民の側にあるのであって、政府に対する批判の目を銀行に移す意図があると指摘する論者もいる。

 新政権は問題を作ったのは自分たちではないと言いたいのだろうが、もちろんこれまでの政府と銀行は共犯関係だ。自由愛国運動やヒズボラ、アマル運動もこれまでの政権に参加してきた。

 それでも、ディアブ内閣が銀行に対して、これまでの内閣と違って厳しい態度をとるのには理由がある。ディアブ内閣の後ろにはアメリカがテロ組織として指定するヒズボラがいるからだ。

 中央銀行の総裁は、シーア派系の銀行をヒズボラと関係があるとして操業停止にするように、かつてアメリカ側に進言した人物でもある。ヒズボラは現在の銀行システムに不満を持っているのだ。

 これまでのデモでも、改革を望まないヒズボラ民兵がデモ参加者に攻撃を加えていたが、この銀行問題ではヒズボラがデモ隊の主張を支持していた。

 今後、どうなるかの先行きは不明だ。

 4月30日、レバノン政府は経済改革案をまとめ、ヒズボラが反対していた国際通貨基金(IMF)の支援を求めるための交渉に入った。

 また海外からの経済投資も必要となってくるが、ヒズボラ寄りの政権であるため、欧米や湾岸諸国の資金はこれまでのようには期待できない。

 ちなみに経済再建のためのドル獲得の秘策として、レバノン政府は医療用の大麻を合法化する法律を4月末に可決した。国連によると、レバノンは世界第4位の大麻生産国。

 大麻の是非はここでは論じないが、経済再建案がそこから始まるとはレバノンも相当病んでいるのかもしれない。不安定な状況に追いやられているシリア難民やパレスチナ難民などの貧困層にも大麻は蔓延している。


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