2024年11月23日(土)

World Energy Watch

2020年6月16日

収益・雇用減に直面する航空業界

 世界のフライト数が前年の3分の1になる状態では、航空会社が利益を上げることはできない。米国の航空会社の費用を分析した国際民間航空機関(ICAO)のデータによると、費用の約50%が、飛行に係わる費用、すなわち、燃料費、機体に係わる(減価償却費あるいはリース)費用、保守整備費、パイロットの人件費などで、約30%が地上に係わる費用、空港利用料、旅客の予約に係わる費用など、約20%がシステムに係わる費用、一般管理費、地上設備の費用と分類されている。

 機体に係わる費用は、利用時間、座席数、機種により異なるが、飛行に係わる費用の20%から35%程度と示されており、全費用の10%程度から20%弱に相当している。この費用は飛んでいなくても確実に負担が必要だ。さらに、レイオフをしない限り、クルー、整備、地上職などの人件費も負担する必要がある。クルーの人件費は飛行コストの20%から30%を占めており、全費用の10%から15%に相当している。

 フライト数が減少したことにより、多くの航空会社は赤字に陥っており、IATAの6月9日付の予測では今年の航空機利用者数は2019年から半分以下に落ち込み、売上、旅客キロ数もほぼ半分になる見通しだ。旅客キロ数は15年前の数字に逆戻りだ。旅客キロ数の減少に伴い、雇用も大きく削減されるとみられている(表)。

 仮に、ソーシャルディスタンスを航空機内で取ることが必要になると、搭乗率は最大で62%に抑制することが必要になると試算されているが、IATAが122社の財務内容を分析した結果では、搭乗率62%以下で収益を出せるのは4社のみだ。航空業界には苦難の年がしばらく続きそうだ。

温暖化対策への圧力

 コロナ禍前から、航空業界への風当たりは欧州では強くなっていた。乗客1人当たりの二酸化炭素排出量が、鉄道、自動車に比較し、相対的に高い航空機の利用を止めるべきとの主張だ。英BBCによると航空機からの二酸化炭素排出量は、離陸時に多いので短距離フライトだと大きくなる。また二酸化炭素以外の温室効果ガスの排出も航空機にはあるとされており、その効果を考えると温室効果ガスの排出量は他の交通機関よりさらに大きくなる。BBCによる交通機関別二酸化炭素排出量の例は図‐3の通りだ。

 航空機を利用しないグレタ・トゥーンベリさんは、欧州内は鉄道、大西洋横断にはヨットを利用している。もっとも、彼女が英国から米国まで大西洋を横断したヨットを英国に戻すために2人の乗組員が英国から米国まで航空機で移動したと報道された。さらに、昨年12月マドリードで開催された気候変動枠組み条約の会議に出席するため、トゥーンベリさんが豪州人が提供したヨットに同乗し大西洋を横断した際には、英国人船長は米国の出発地まで航空機で来たとヨットを提供した豪州人が語っている。彼女を支えるための活動で二酸化炭素排出量が増えているかもしれない。

 航空部門からの排出量を抑制するためEUは航空機を排出量取引制度の対象としている。世界規模の航空部門の排出量取引も来年から試行される予定だ。さらなる対策として、ドイツでは2011年から、スウェーデンでは2018年から航空券に課税が行われている。課税額はスウェーデンの欧州域内6ユーロから、ドイツの遠距離42ユーロまで幅がある。フランスは、今年から目的地と搭乗クラスにより異なる2.63ユーロから63.07ユーロまでの航空券への課税を開始した。

 昨年11月には、ドイツ、フランス、オランダなど欧州9カ国の財務大臣が、二酸化炭素排出量が多い航空業界の排出抑制のため、EUレベルで航空税を導入することを欧州委員会に対し要請した。オランダは、EUレベルでの導入が行われないならば2021年から航空券当たり7ユーロの独自の航空税を導入すると明らかにしているが、コロナ禍に喘ぐ欧州航空会社はオランダ政府に対し導入延期を要請している。

 しかし、フランス政府と緑の党が連立政権に参加するオーストリア政府は、航空会社支援策の中に温暖化対策を織り込む条件を付け、オーストリア政府は航空券への課税方針を明らかにした。


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