2024年12月14日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年7月2日

 米国の国立アレルギー感染症研究所所長で、COVID-19について米国で最も権威があるとみなされているファウチ博士は、6月12日、CNNとのインタビューで、経済活動の再開に伴う感染拡大の可能性を指摘し、「入院者数が増え始めており、悪い方向に向かっている兆候だ」と警告を発した。

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 米国における経済、社会活動は、この警告を無視するかのように活発になっている。それを象徴するのが、トランプ大統領が、6月20日のオクラホマ州タルサで選挙集会を再開すると発表したことである。

 トランプ政権は、4月16日、経済活動再開のガイドラインを発表した。感染者数の減少、検査中の陽性反応の割合の減少を目安に、3段階に分けて経済活動を再開するというものである。経済活動のほぼ全面的再開を認める第3段階は、感染者数と陽性反応の割合の減少が6週間続いた場合に当てはまるものであるが、それでもソーシャル・ディスタンスはとることとされている。どう見ても、タルサの共和党選挙集会はこれに当てはまらない。

 一方で、ファウチ博士の警告にあるように、米国の複数の州では、入院者数が増加している。ロイター通信によれば、テキサス州とノースカロライナ州は6月12日、入院の比率が新型コロナウィルスの感染が始まって以来最高水準になったと発表したとのことである。
 
 6月20日の選挙集会は、各種世論調査で、トランプ大統領がバイデン民主党候補の後塵を拝しており、トランプの選挙運動に弾みをつけ形勢の逆転を図ろうとするものと思われる。選挙集会で、どの程度の感染対処策が講じられるか定かではないが、あまり規制をしたのでは、選挙運動に弾みをつけることにならず、基本的には従来の選挙集会と同じような集会になった。トランプは感染状況、および自ら制定したガイドラインを無視して選挙集会を強行したようである。ただ、映像を見る限り、新型コロナの影響か、トランプ人気の陰りか、会場の客席は満席にならず、今まで通りの盛り上がりとは行かなかったようだ。

 トランプが経済活動の再開に前のめりになっているのは、秋の大統領選挙をにらんでのことである。米国の大統領選挙のカギを握るのは経済情勢と言われている。It’s the economy, stupid という有名な言い回しがある。これは、1992年の大統領選挙でビル・クリントン陣営が使った表現である。1992年の選挙では、当初、現役のH.W.ブッシュが有利と見られていた。1991年3月の米国主導の多国籍軍のイラク侵攻の数日後の世論調査で、90%がブッシュ政権を支持した。しかし、その後、景気後退でブッシュ支持が急落、その状況のなかで、クリントン陣営が、「要は経済だよ、馬鹿者」というキャッチフレーズを作り出したという。

 COVID-19がなければ、おそらく本年の大統領選挙は、絶好調の米国経済を背景に、トランプが楽勝していたであろう。それが、COVID-19で状況が一変し、トランプは苦境に立たされた。トランプとしては、経済活動を一日も早く再開し、V 字型回復と言わないまでも、経済の回復を実現することが選挙に臨む必須の条件である。

 しかし、COVID-19の現状を無視することは大きなリスクを伴う。もし第2波が訪れるようなことになれば、経済の回復どころか経済はさらなる打撃を蒙る。そのリスクを冒してまでのトランプの最近の行動は、トランプが追い詰められていることを示していると言えるだろう。

  
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