Wedge REPORT

2020年7月20日

»著者プロフィール
閉じる

小早川周司 (こばやかわ・しゅうじ)

明治大学政治経済学部教授

一橋大学経済学部卒業後、英オクスフォード大学にて経済学修士号(M.Phil.)、博士号(D.Phil.)を取得。日本銀行ニューヨーク事務所、経済協力開発機構(OECD)出向、企画局参事役等を経て、14年から決済機構局参事役を歴任。この間に、BIS決済・市場インフラ委員会傘下のリテール決済部会、デジタル・イノベーション部会等のメンバーを務め、『中央銀行デジタル通貨』報告書等の執筆を担当。2019年より現職。

(Jos_Temprano/gettyimages)

 6月16日に開催された政府の未来投資会議では、決済システムの高度化が取り上げられ、銀行間での資金貸借を処理する「全国銀行データ通信システム」(以下、全銀システム)に、新たな決済サービス事業者の参加を認めることを検討すべきであるとの論点が盛り込まれた。

 全銀システムは、わが国の経済取引を支える重要な金融インフラである。2019年の実績をみると、1日あたり687万件、12兆円に達する資金の処理を扱っている。その特徴としては、

  1. 国内のほぼすべての金融機関が参加している
  2. こうした広範なネットワークを使って銀行間の為替取引を即時に処理している
  3. 1973年の稼動開始以来オンライン取引を停止したことがない

などが挙げられる。2018年からは夜間休日を問わずいつでも相手に送金し、受取人の口座にほぼ同時に着金するサービスも開始されている。英語では全銀システムのような基盤を「プラットフォーム」と呼ぶが、そこにフィンテック企業に代表される新しいプレーヤーが参加するとどうなるか。この問題を分かりやすく理解するために、「フランスの市場(マルシェ)」の構造を例にとって考えてみよう。

マルシェの好循環を生む
二つの共通項

 フランスでは、日常生活で生鮮食料品を購入する際に、「マルシェ」と呼ばれる、地区毎に曜日を決めて開催される市場を利用する。フランス語以外は通じにくいとか、料理で使う肉の部位を巡って店主と口論になるなど、日本人にとっては頭を悩ますこともあるが、新鮮な食料品が手に入ることからフランスの市民生活に深く根付いている。

 経済学的にみると、売り手と買い手の需要が交差するマルシェは、地元社会を支える重要なプラットフォームである。利用者が増えれば増えるほど売り手と買い手の双方が得をするというネットワーク効果がフルに発揮されている。

 しかし、こうした効果を最大限に発揮しているマルシェには、ある2つの共通項があることに気づく。

 1つ目は、「売り手」側が多様性を確保していることである。肉屋や魚屋のほか珍しい食材を扱う店舗が並ぶよう工夫されていたり、一言で「肉屋」と言っても、現地の食肉を専門に扱う店もあればイタリア産のハム類に特化した店もあるなどそれぞれに特色がある。同じような品質の食肉を販売する場合には店舗間での価格競争が起こるが、他店では扱わない商品を取り揃えることによって商品の差別化も進んでいる。多様な店が軒を連ねることによって、魅力を感じた客が集まり、集客を見込んでさらに店が増えるという好循環が働いている。

 2つ目は、マルシェの運営に、地方自治体が深く関与していることである。マルシェは誰でも好き勝手に出店できる訳ではなく、マルシェの所在地にある役所の許可を得なければならない。このほか、出店料の支払いや衛生管理の遵守など様々な規則が設けられている。こうした枠組みがしっかりと整備されているため、利用者は安心してマルシェで買い物をすることができる。優良といえるマルシェの信用を支えているのは、地方自治体という取引仲介者がプラットフォームを運営していることによる。

 このように、マルシェは多様な売り手が出店すればするほど買い手が増え、多くの買い手が来場すればするほど売り手も売り上げが増えることから、「二面性市場」としての特徴を持っている。ここで重要なのは買い手にとってのマルシェの魅力が高まれば、売り手も得をすると言うことである。つまり、従来から出店していた肉屋にとって珍しい食材を扱う店が参入してくれることによってマルシェに来場する買い手が増え、自らの商品も売れるようになるということである。

関連記事

新着記事

»もっと見る