世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2020年7月23日

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 7月7日付のウォールストリート・ジャーナル紙が、中国は共産党に対する批判を封じ込めるべく国家安全法によって世界中で言論に抑圧の網をかぶせ、香港でビジネスを行う企業には世界中で共産党の統制に服すことを強いようとしていると警告する社説を掲げている。

NatanaelGinting/iStock / Getty Images Plus

 昨年6月、香港行政長官の林鄭月娥(Carrie Lam)は、抗議デモの引き金を引いた逃亡犯条例案を事実上廃案とする意向を表明したが、デモは収束しなかった。彼等は林鄭月娥の辞任を要求しあるいは警察の暴力的なデモ弾圧の責任を問い、激しいデモを継続した。これに対し、中国共産党は国家安全法をもって報いた訳であるが、この弾圧は徹底したものである。

 これで香港の「一国二制度」は崩壊した。この先、社会・経済の面での実態、あるいは金融センター・国際都市としての香港がどういう風に変化し崩壊するかの問題があろう。

 国家分裂、政権転覆、テロ活動、外国勢力との結託の4つの危険な分野を避けて遠ざけておれば何の問題もない、ビジネスに何の困ることはないと説いている親北京の立法会議員がいるらしいが、そうはいかないだろう。4つの分野にしてみても、何がそれに該当するのかが恣意的に定義され得る上に、香港の外での言動も対象とされている。

 それ以前の問題もある。その1例がこのウォールストリート・ジャーナル紙の社説にもある。国家安全法の43条は警察当局の捜査権限と手法を規定しているが、7月6日、国家安全委員会がその詳細なルールを定め公表した。それが116ページものルールである。それによれば、警察当局はネットに有害な投稿がある場合、サービス・プロバイダーに対してユーザー情報の提供など捜査上の支援を命じ得ることとされ、これに従わない場合には10万ドルの罰金および6か月の懲役が課せられるとされている。

 この論説にあるように、Google、Twitter、Facebookは7月6日、国家安全法の詳細を検討する必要があるとして、香港当局へのユーザー情報の開示を一時停止することを表明した。彼等は一様に人権や表現の自由を擁護することの重要性に言及している。彼等が米国内で必然的に起きる非難に抗してまで国家安全法の実行のために香港当局に協力することはあり得ないであろう。早晩、彼等は香港を捨てざるを得ないであろう。ネットの世界でも香港の本土化が進む。当然、香港の社会のあり様に影響するであろう。

 他にも何かあるかも知れない。北京への忠誠を誓うHSBCとスタンダードチャータード銀行は国家安全法に支持を表明し北京に忠誠を誓っているが、これら企業の従業員の中に 4つの分野に触れる言動をする者があって、企業の責任が問われる事件が起こるかも知れない。良く分からないが、要するに、色々な事件が起こり得る。それが少しずつ香港の社会・経済を変えるのではあるまいか。香港を捨てる企業が出て、香港の地位が下がることがあれば、それは中国に支払わせるべき小さな代償である。

 カナダは香港との犯罪人引渡し条約を停止すると発表したが、当然の措置であろう。国家安全法の標的となった犯人を香港当局に引き渡す訳にはいかない。西側にとって香港の置かれた状況の変化に応じた措置は必要であるが、制裁は中国および中国に協力する香港当局者が標的でなければならない。英国では人権侵害を理由とする新たな制裁法を香港問題との関連で発動することの是非が議論されている。米国では香港自治法案が議会で成立したが、香港の自治の侵害に関わった中国や香港の当局者と取引関係にある金融機関に金融制裁が可能となる。これが発動されることになれば、中国の金融機関が国際的な金融市場から締め出されることになり得るので相当のインパクトを持つであろう。仮に HSBCやスタンダードチャータード銀行が制裁の対象になるようなことがあれば、香港の金融センターとしての地位にも甚大な影響があるのではないかと思われる。

  
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