国交省の制度創設を待ったら
「テスラに先を越された」
一方、自動車メーカーはどうしようとしているのだろうか? ナビなどのOTAは実現しているが、全面的な採用はまさに始まったところだ。複数の自動車メーカー関係者は、異口同音に「OTAでの進化は検討していたが、当局とともに慎重に進めようと考えていたところ、テスラに先を越された」と話す。その上で、ようやく準備が進みつつある。国土交通省は8月5日、携帯電話ネットワークなどを前提とした「自動車の特定改造等の許可制度」を11月より開始すると発表した。
これは、販売済みの自動車のソフトウェアをOTAでアップデートし、機能強化していく「改造」に関わる許可制度で、特に改造による不具合などで自動車が保安基準に適合しなくなる可能性がある場合、つまり「走りや安全に関する根幹的な部分の機能アップ」を実現するためのものだ。管理能力のある事業者(主に自動車メーカー)を認可・登録し、安全性を担保していく。
こうした制度の存在を前提として、各社はここからOTAが可能な自動車の開発に取り組んでいく。例えばトヨタ自動車・デンソー・豊田通商は、19年にOTA技術を開発する米Airbiquityに共同で出資した。そうした技術を軸に、20年冬の発売を予定しているレクサスブランドのフラグシップセダン「LS」の新モデルでは、OTAによる機能アップデートに対応する予定だ。
OTAでは「クラウドでの処理」が必須だ。そこでも動きを見せているのが、日本メーカーの雄・トヨタだ。
8月18日、トヨタは、米アマゾン・ドット・コムのクラウドインフラ部門であるアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)との協業拡大を発表した。トヨタは従来より、マイクロソフトやAWSと提携し、自動車向けの走行データなどのいわゆる「ビッグデータ」蓄積と処理に利用してきた。
協業拡大の背景には、OTAを前提とした「通信を組み込んだ自動車」が増加していくことを背景として、従来以上に大量のデータが、より早い速度で蓄積されていく……との分析がある。トヨタは将来的に、自社の販売、または配車サービスなどで提供する自動車から得られたデータを使って「改善」し、また自社の自動車にOTAで反映していく。カーシェアリングのようなサービスでは、自動車の位置や燃料残量はもちろん、整備状況などの管理も必要になる。
すなわち、今後は、自動車というモビリティ全体を生かすクラウドプラットフォームが必須となる。いわゆる「MaaS(Mobile as a Service」に求められるのはチケット販売や配車サービスの提供だけではない。日本の自動車メーカーが、競争の鍵となる「クラウドとOTAの活用」をなしとげられるのか、注目だ。
Wedge10月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■新型コロナ こうすれば共存できる
Part 1 ・新型コロナは〝ただの風邪〟ではない でも、恐れすぎる必要もない
・正しく学んで正しく恐れよう! 新型コロナ情報を読むレッスン
・医療現場のコロナ対応は改善傾向 それでも残る多くの〝負担〟
Part 2 ・「してはいけない」はもうやめよう 今こそ連帯促す発信を
・コロナショック克服へ 経済活動再開に向けた3つのステップとは
・なぜ食い違う? 政府と首長の主張
・動き始めた事業者たち 社会に「価値」をもたらす科学の使い方
Part 3 煽る報道、翻弄される国民 科学報道先進国・英国に学べ
Part 4 タガが外れた10万円給付 財政依存から脱却し、試行錯誤を許容する社会へ
Part 5 国内の「分断」を防ぎ日本は進化のための〝脱皮〟を
▲「WEDGE Infinity」の新着記事などをお届けしています。