2022年8月10日(水)

WEDGE REPORT

2020年12月11日

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井上哲也 (いのうえ・てつや)

野村総合研究所金融デジタルビジネスリサーチ部・主席研究員

1985年東京大学経済学部卒、日銀に入行。米イェール大に留学、92年経済学修士取得。日銀復帰後、邦銀の国際業務のモニタリング、福井俊彦副総裁(当時)秘書、植田和男審議委員(当時)スタッフ、金融市場局参事役(国際金融為替市場)などを務める。2008年より現職。近著に『デジタル円』(日本経済新聞出版社)。

 

デジタル時代の社会資本

 ネットワーク外部性の下では、日本がデジタル通貨の開発や導入で先行しても、中国や米国に比べた国内市場の規模の小ささを考えると、国際競争力を持つことは実際には難しい。それでも調査研究や実証実験で先行しているが、日本と同じく個々の経済規模の小さい欧州諸国と、技術や制度に関する国際標準の樹立などの面で連携を図る道は残されている。

 そうした可能性を探る上でも、あるいは最終的に国際標準を採用するとしてもその一角を担うことでデジタル技術や消費者サービスの競争力を維持する上でも、日本におけるデジタル通貨の開発と導入を加速する必要がある。

 日本でもキャッシュレス支払の利用が高まりを見せ、金融機関に加え他業態からの参入も活発化して競争が激化している。本来望ましい動きである一方、手段の乱立で利用者の利便性がかえって低下したり、業者間の競争が消耗戦となったりする副作用も明らかになりつつある。

 また、信認の高さが現金利用を支えてきただけに、新たな支払手段にも高いセキュリティーが求められる。中央銀行が、安全性が高く効率的なデジタル通貨を導入し、幅広い事業者に対してインフラとして提供することで利用者の利便性を高めつつイノベーションを円滑化することが望まれる。中央銀行デジタル通貨は、デジタル時代の新たな社会資本と位置づけられる。

 もちろん、デジタル通貨を開発し導入する上では、民間の知見と技術の活用が求められる。開発で先行する中国や欧州諸国と同じく、日本でも中央銀行と金融機関やIT企業などの共同作業が不可欠だ。

 デジタル通貨の運営に伴って得られる支払や利用者の情報を、利用者の権利や意向を尊重しながら、民間事業者による消費者サービスの効率化や高度化に活用しうるようにするための工夫も重要な課題だ。つまり、先に見た国際戦略の視点も含めて「オールジャパン」の取り組みが必要となっている。

 通貨という金融・経済の根幹に変更を加えることは、金融業界にとどまらず全ての国民の日常生活に大きな影響を与える。そのため、新たなデジタル通貨が高い安全性と効率性を具備することはもとより、通貨の進化の必要性について幅広い理解と支持を得ることが前提になる。実際の導入には関連する法律の改正が必要になる可能性も踏まえて、中央銀行と関連する業界には、世論の喚起に向けた努力も欠かせない。

Wedge12月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■脱炭素とエネルギー  日本の突破口を示そう
PART 1       パリ協定を理解し脱炭素社会へのイノベーションを起こそう          
DATA            データから読み解く資源小国・日本のエネルギー事情        
PART 2         電力自由化という美名の陰で高まる“安定供給リスク”         
PART 3         温暖化やコロナで広がる懐疑論  深まる溝を埋めるには 
PART 4       数値目標至上主義をやめ独・英の試行錯誤を謙虚に学べ   
COLUMN       進まぬ日本の地熱発電 〝根詰まり〟解消への道筋は   
INTERVIEW  小説『マグマ』の著者が語る 「地熱」に食らいつく危機感をもて  
INTERVIEW  地熱発電分野のブレークスルー  日本でEGS技術の確立を 
PART 5         電力だけでは実現しない  脱炭素社会に必要な三つの視点  
PART 6       「脱炭素」へのたしかな道  再エネと原子力は〝共存共栄〟できる         

  
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◆Wedge2020年12月号より

 

 

 

 

 

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