政府は大胆な金融緩和で人手不足状態を作りながら最低賃金を引き上げてきた。2012年に749円だったものが19年には901円まで152円上昇した。それ以前の05~12年では81円しか上昇していない(厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」)。失業者を減らしながら賃金を引き上げてきたのだから成功と言えるだろう。
下図は、国民経済的な生産性を表す1人あたり実質国内総生産(GDP)と有効求人倍率の推移を示したものである。また、灰色の部分は景気後退期を示す。有効求人倍率が高いとは、人手不足の状況を示す。1人あたりGDPは有効求人倍率が高い時に、高い成長を示している。最近で見れば、01~07年、12~18年が有効求人倍率のプラス方向への動きと共に成長している。
コロナの影響はいつまで?
人手不足であれば、省力化投資も必要になる。GDPが伸びているのだから、資本設備も不足気味になる。これらの期間では設備投資も伸びている。そもそも、投資しないと生産性も伸びない。新しい設備には新しい技術が搭載されているのだから、設備を新しくすれば生産性は自然と高まるものである。ところが、需要が伸びる、もしくは継続すると思えなければ投資はできない。すると、投資するためにも需要が伸びていることが必要である。したがって、需要の拡大とともに人手不足が生じ、生産性も高まったのである。
では、どうしたら継続的に需要を喚起し続けることができるのだろう。01~06年および13年以降は、大胆な金融緩和政策を行った時期である。01~07年では財政支出はわずかに抑え気味であった。12年以降は財政支出はほぼ一定だったが二度の消費税増税を行っている。増税後、どちらも消費が大きく低下している。このことを見れば、金融・財政両面からの景気刺激政策を続けることが必要だということになる。
それで財政赤字はどうなるのかという意見が必ずあるだろうが、どちらの時期も財政赤字は縮小し、政府債務残高の対GDP比は、横ばいになっていた。12~18年に一般政府赤字の対GDP比は、6%低下したが、うち消費税増税によるものは1.5%でしかない。金融緩和で好況にならないと財政再建もできないということだ。
ミクロの供給拡大とマクロの需要拡大が大事なことは分かったが、今は新型コロナで経済は不況に沈んでいる。どうしたら良いのか、という議論があるだろう。
コロナの影響がいつまでも続くわけではない。治療法の確立、安全で効果的なワクチンの発明などにより、油断はできないが今後1~2年のうちに、インフルエンザのやや深刻なもの程度になることも予想される。そうすれば自粛に飽きた人々は支出を拡大する。経済は正常に戻る。
中小企業の生産性向上や金融機関の再編などの大きな改革が成果を見せるの(すなわち、余剰人員の労働市場への参入)は、コロナ禍が収まるころだろう。金融・財政政策の需要刺激に対応して人手不足となっている経済は、これらの余剰人員を吸収しながら力強い成長を見せる。
■脱炭素とエネルギー 日本の突破口を示そう
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DATA データから読み解く資源小国・日本のエネルギー事情
PART 2 電力自由化という美名の陰で高まる“安定供給リスク”
PART 3 温暖化やコロナで広がる懐疑論 深まる溝を埋めるには
PART 4 数値目標至上主義をやめ独・英の試行錯誤を謙虚に学べ
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