Wedge REPORT

2021年1月13日

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筒井清忠 (つつい・きよただ)

帝京大学文学部長

1948年大分市生まれ。帝京大学文学部長・大学院文学研究科長。東京財団政策研究所上席研究員。専門は日本近現代史、歴史社会学。『昭和史講義』(編著、ちくま新書)『帝都復興の時代』(中公文庫)など著書多数。
 

 すでに見たように政党・議会は強く、国家総動員法もやっと通過するというありさまだった。42年には戦争中に総選挙が行われている。37年以来のもので1年延びただけだった。翼賛選挙と言われる不十分なものだったが、翼賛側から推薦されなかったにもかかわらず、当選した多くの議員が、戦後の議会政治の復興にいち早く貢献することになる。

 議会政治の母国イギリスで、戦争に勝利したチャーチルが45年の総選挙で落選したことは名高いが、このイギリス総選挙は35年以来の10年ぶりの総選挙であった。議会政治の母国ですら10年も間をおかなければできなかった総選挙を日本では日米開戦後、1年延期しただけで実施したのである。だから、アメリカの知日派の作った、日本に降伏を勧めたポツダム宣言には「民主主義的傾向の復活強化」とあり、実際日本の議会政治は戦後すぐに復興したのだった。

戦前の過ちを繰り返さず
多様性・多元性のある社会を

 最初に議会政治の危機ということを言ったが、この歴史に根付いた頼もしい事実から、私は日本の議会政治には憂慮を持ちつつも「希望」を持っている。問題はむしろ下からの同調圧力が強く、そのためポピュリズムに流されやすいことの方だ。

 それを防ぐことは難しいが、ここで一つだけ提言を述べておけば、身近から実現可能なこととして異論・多様性・多元性を重視する社会にしていくということがあるだろう。よく言われることかもしれないが、言われるだけで実際の日本社会には真のそれがない。ある集団の内部で異なった意見を言う機会が甚だしく少ない社会なのだ。

 例えば、自分の所属する集団が政府与党側か反政府野党側かということが判ると、その集団に所属する人は相互規制が強いためその内部で反対することがほとんどなくなる。集団内での孤立を恐れ異論を言わないのだ。これではいつまでたっても同調圧力が強くポピュリズムに流されやすい体質は変わらないであろう。

 我々自身が身近からそれを実行できずに同調圧力やポピュリズムを言説世界でいくら一般的に批判をしても意味がない。コロナ禍と歴史の類比から学ぶ、日本を全体主義の危険性にさらさないようにする方策は、この身近な所属集団への異論を唱えやすくしていくことであり、そこから多様性・多元性のある社会に少しでも変えて行くことであろう。

Wedge1月号では、以下の特集を組んでいます。全国の書店や駅売店、アマゾンなどでお買い求めいただけます。
■取られ続ける技術や土地  日本を守る「盾」を持て
DATA            狙われる機微技術 活発化する「経済安保」めぐる動き        
INTRODUCTION アメリカは本気 経済安保で求められる日本の「覚悟」
PART 1         なぜ中国は技術覇権にこだわるのか 国家戦略を読み解く  
PART 2         狙われる技術大国・日本 官民一体で「営業秘密」を守れ     
PART 3         日本企業の人事制度 米中対立激化で〝大転換〟が必須に 
PART 4     「経済安保」と「研究の自由」 両立に向けた体制整備を急げ   
COLUMN       経済安保は全体戦略の一つ 財政面からも国を守るビジョンを   
PART 5         合法的〟に進む外資土地買収は想像以上 もっと危機感を持て   
PART 6         激変した欧州の「中国観」 日本は独・欧州ともっと手を結べ 
PART 7         世界中に広がる〝親中工作〟 「イデオロギー戦争」の実態とは?
PART 8       「戦略的不可欠性」ある技術を武器に日本の存在感を高めよ         

  
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◆Wedge2021年1月号より

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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