世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年6月10日

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 欧州議会は、5月20日、EU・中国間の包括投資協定(CAI)の批准のための審議を凍結することを、圧倒的多数で決めた。この決議は、賛成599票、反対30票、棄権58票で可決された。EUと中国との投資協定の実施には欧州議会の賛成が必要であり、この決議により同協定の発効は当分見送られることになる。同条約は、昨年12月、ドイツのメルケル首相がEUの議長国であった時に、慎重論もあった中で、政治レベルで合意されたものだ。

 今回、欧州議会が中国との投資に関する条約の批准を凍結したことは、EUと中国との関係に否定的な影響を与えるだろう。

 そもそも、今年3月20日、ウイグル人問題について、これを人権侵害として、 EUが中国の高官等にEU諸国への入国禁止や資産凍結の制裁を発動したのに対して、中国共産党が、欧州議会議員、外交官、学者、シンクタンク等に報復制裁したことが、EU・中国関係の大きな悪化を招いた。そして、今度は、欧州議会が昨年末に合意された EU・中国投資条約の批准を凍結することで応えたというのが経緯である。

 EUも中国も態度を変えることは見込まれず、EU・中国投資条約は少なくとも当面は批准されないことになろう。その経済に与える影響は正確には測定不可能であるが、EUの対中投資、中国の対EU投資に否定的な影響を与えることは確実である。

 経済取り決めは通常、双方にとり利益になるものであるから、それを取りやめることは双方の損失になる。EUがそれを覚悟してこの投資条約の批准を「凍結」したことは、EUの対中姿勢が経済的利益だけで動いているのではないことを示すものであり、そういう姿勢は歓迎される。経済的利益よりも政治的に筋を通すことを優先させた姿勢は評価される。

 米国、EU、英国、カナダはともに、ウイグル人問題について中国に制裁を課している。日本は米国のマグニツキー法やEUの同じような法律のごとく、人権侵害に制裁を課す法律を持たない。したがって、ウイグル人問題について制裁を課すことが法律上不可能である。こういう法律があった方が米国とEUと歩調を合わせることが出来、民主主義陣営としての協調ができるが、同時にそういう法律を作り運用することは、このケースでも見られるように中国の報復制裁につながることになる。この問題は諸要素を考慮して考えていくべきであろうが、どちらかといえば、制裁という手段も発動には慎重であるべきだが、手元に用意しておくのが適切ではないかと考える。すなわち、法律は準備しながらも、その運用は慎重にということである。

 中国は習近平の下で、香港についての国際条約違反、国際法を無視した南シナ海での行動、国内での人権侵害など、鄧小平の姿勢とは様変わりして、強引な対外政策を遠慮なしに追求している。これは中国の覇権追求政策を示しており、これにはブレーキをかけていくことが重要である。EUの今回の出方はそれに資すると言えるだろう。

  
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