2024年11月22日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年6月18日

 最近武漢ウイルス研究所事故流出説につき更なる調査を求める国際的な声が強まっている。5月24日に始まったWHO総会で日米欧は追加調査を求めた。

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 バイデンは、5月26日、情報関係機関に対してコロナウイルスの起源につき調査を強化、確定的結論を今後90日以内に提出するよう求めた。従来のWHO報告(動物から人への感染説と研究所流出説を挙げ、後者の可能性は極めて低いとした)への依拠の立場から舵を切ったと受け取られている。その後同研究所の研究者3人が19年の11月に(武漢感染の数週間前)既に新型コロナウイルスに似た症状を示し入院していたとの情報、同研究所は軍により使用されていたとの情報も出てきている。27日、中国外務省報道官は「中国科学院武漢ウイルス研究所からの漏洩は不可能だという結論はWHOの調査でもはっきりしている。これが正式で科学的な結論だ」と主張した。なお英国紙によれば新型コロナウイルスの起源について英情報機関が武漢研究所流出の可能性があるとみているという。

 フィナンシャル・タイムズ紙コラムニストのラックマンは、5月31日付け同紙のコラム‘China’s wolf warriors bristle at Covid blame: A new US investigation into the origins of the pandemic raises the stakes for Beijing and Washington’で、追加の調査は不可避で必要だと主張すると同時に、コロナウイルスに係る中国への非難への戦狼達の怒りなど、中国のこれまでの攻撃的な反感や反論等を見ると、中国がそのような責任論を攪乱するために新たな侵略的行動をとるかもしれない、と警告している。ラックマンの主張は理解できる。

 コロナウイルス発生後の中国の対応は問題が大きい。戦狼外交など、常態化する攻撃的な情報攻勢は、前代未聞のことではないか。中国の民度が試されていると言っても過言ではない。中国の反応は対中警戒を強め、逆効果だったばかりでなく、中国の異質性を際立たせることにもなった。それは、多分に中国の権威主義的政治システムに起因すると考えざるを得ない。習近平のパーソナリティにも関係するかもしれない。果たして鄧小平等の下でも中国は同様に反応したであろうかという疑問も湧いてくる。中国は不適切かつ不必要なプロパガンダにも手を染めている。最近、情報戦の担い手として外交官にアーティスト達も加わったようだ。4月に中国外務省は、葛飾北斎の浮世絵「富嶽三十六景神奈川沖浪裏」のパロディー画をツイッターに投稿、防護服をまとった人物が船からバケツで緑色の液体を流す様子を描き、福島原発の処理水の放出方針を批判した。同月末在京米大使館公式ツイッターは、イラク、リビア、シリアなどにおける米国を「死に神」になぞらえたおぞましい風刺画を投稿した。驚くべき神経だと言わざるを得ない。

 研究所流出説は、徹底的に調査すべきである。それを否定するには未だ多くの疑問が残っており、また関連の生データ等へのアクセスも認められていない。中国が誘導を続ける中間宿主を通じる動物から人への感染説も、それを裏付ける肝心の具体的感染経路は解明されていない。政治化を排し、純粋に科学的見地から徹底調査を行うべきであり、何よりも中国は調査に協力する必要がある。全ての関係情報を提出し、アクセスを許可すべきだ。中国は、当初から情報を隠ぺいした。隠ぺいは疑念を呼ぶし、問題がなければ隠ぺいする必要もない。一部の情報は既に廃棄されているとも伝えられる。実態の解明は、次のパンデミック対処に当たり人類全体が必要とすることである。

  
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