2024年4月20日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年7月16日

Fedor Kozyr / iStock / Getty Images Plus

 6月24日、香港の人気のあった新聞、蘋果日報(リンゴ日報)が廃刊になった。同紙は、創業者の黎智英(Jimmy Lai)が1997年の香港の中国への返還の2年前に発刊した民主主義支持の新聞であったが、国家安全法違反容疑でのJimmy Laiの逮捕と有罪判決、収監、資産凍結、さらに新聞社の資産凍結とその上級役員5人の逮捕があり、新聞の発行が不可能になったからである。

 リンゴ日報に対する動きは国家安全法が直接ジャーナリストに適用された初めてのケースである。警察はメディアに対し、この新聞が発表した記事や論説が国家安全を危険にさらす道具になっていたのではないかとの容疑で分析を進めていると述べた。これは正常なジャーナリズムと意見表明を犯罪化することを意味する。「外国との共謀になる」または中国または中国高官への制裁の呼びかけになると政府が決定する記事は、国家安全法で起訴されることになる。

 昨年香港で施行された国家安全法は香港返還時に香港に約束された自由を次々と消していくために使われている。1国2制度は完全に形骸化したと言わざるを得ない。これは2047年までの1国2制度を約束した1984年の英中共同声明という批准書も交換された条約に違反する国際法違反行為である。6月24日発行の最後のリンゴ日報には、「香港人への別れの手紙」が掲載され、「報道の自由は暴政の犠牲になった」と書かれたが、まさにその通りであろう。

 6月23日付けフィナンシャル・タイムズ社説‘Apple Daily case is assault on Hong Kong’s freedoms’は、リンゴ日報の件は自由な言論への直接攻撃だけではなく、他の出版社の自己検閲を結果としてもたらし、その結果、メディア一般を脅し、ビジネスに反政府出版に広告を出させないようにすることを目的にしている、と指摘する。つまり、問題はジャーナリズムを超えて広がるということである。銀行は中国の政治あるいは国営企業に批判的な分析者の報告書が問題にされることを懸念するだろう。社説は、リンゴ日報の資産が裁判所の命令で凍結されたという動きから、より大きな、または外国のビジネスへの攻撃に発展するには、小さな一歩でしかないと述べている。

 本件に対し、加藤官房長官が記者会見で「言論の自由や報道の自由を大きく後退させるものであり、重大な懸念を強めている」と述べたのも当然である。これに対して、中国外務省の趙立堅報道官は加藤官房長官の発言に反発、「私たちは強烈な不満と断固とした反対を表し、日本側のでたらめな言論を断じて受け入れない」と述べるとともに、今回の措置は「1国2制度を完全なものにし、香港の繁栄と安定の維持に役立つ」と述べた。趙立堅は、コロナウイルスは米軍が武漢に持ち込んだなどと発言した人であり、ナチスドイツのゲッベルス宣伝相(嘘も百回言えば真実になると言った)のような嘘つきであるが、こういう発言には反発しておく必要があろう。

 しかし、中国の香港への対応の問題は、こういう言葉のやり取りで終わらせるべきものではない。これからは民主主義と専制主義の戦いであるというのであれば、金融のハブとしての香港の機能を失わせることなどを含め、民主主義国が結束して中国に不利益を与える手段を考えていくべきであろう。

 中国は、香港のほか、南シナ海、東シナ海その他でも国際法違反行為をしているが、対抗措置を考えるべきであると思われる。こうした状況下でも中国への投資が増えているとか、香港市場も活気を呈しているなどの状況は、「資本家は利潤のためなら自分を縛り首にするロープさえ売る」というレーニンの言葉の正しさを裏書きしているようで、適切なことではない。中国の乱暴狼藉には早め早めにきちんと対応するのが正解であるように思われる。

  
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