2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2021年7月21日

 7月1日に天安門広場で中国共産党百周年の祝賀行事が行われ、習近平が演説した。その内容は既に多くの報道で取り上げられている通り、対外的に極めて強硬なことを言っている。

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 習は、「中国人民は外国の勢力が我々をいじめ、抑圧、奴隷化することを決して許さない、その妄想を持つものは誰であれ、14億人の中国人の肉と血でできた鋼鉄の万里の長城でその頭を割り、血を流すだろう」と述べた他、Covid-19への対応、貧困問題、香港での反対派の弾圧についての外国からの問題提起に対し「我々はこれらの”教師”の傲慢な説教を決して受け入れない」と述べた。また、台湾問題につき「中国は平和的統一を望む。しかしその忍耐心は試みられてはならない。誰も中国人民の国家主権と領土一体性を守る決意、強固な意志、力強い能力を過小評価してはならない」と述べた。

 対外的に強硬な姿勢を打ち出した演説であり、中国と米国とその同盟国との対決の気運を強めるものであって、その緩和には役立たないだろう。しかし、そもそもこういう演説にそれを求めるのが無理であろう。7月1日付けのニューヨーク・タイムズ紙の解説記事は、「これは遊説演説のようなもので、少なくとも習があと10年は最高指導者、司令官で居残るべきであると主張したものだ」とするWo-Lap Lam(香港中文大学中国研究センター非常勤教授)の言葉を紹介している。その通りであろう。

 今回の演説の主眼が国内向けであるとしても、今後、共産党の学習会で繰り返し学習されることになり、その対外強硬姿勢が党員の頭に刷り込まれ、方針転換がしづらくなるというデメリットがある。

 中国共産党は1921年にコミンテルンの中国支部として上海のフランス租界で生まれた。習近平は今回の演説で「偉大で、栄光があり、正しい中国共産党 万歳」と叫んだが、かなり多くの過ちを犯した党である。1958年-62年の大躍進政策、1966年-76年の文化大革命では1000万人以上が死亡したと言われている。

 中国の経済発展が共産党によって遅らされたことは明らかである。鄧小平が改革開放を打ち出した以降、中国経済は急激に成長したが、それは西側諸国との協調があってこそのことではなかったかと思われる。日本は多額のODAを提供し、直接投資もしたし、中国製品を大量に輸入した。米国も同じようなことをした。西側は、中国が豊かになれば民主化につながり、世界はよりよくなると考えた。今から思えば幻想であったと言わざるを得ない。習近平は鄧小平の業績を引き継いだが、思想的な面は引き継いでおらず、対西側対決姿勢を打ち出している。それが中国経済に与える影響は今後よく見ていく必要があると思われる。

 中国の今後の政治については、習近平は、鄧小平が定めた最高指導者は2期10年とする制限を撤廃し、長期独裁政権を築こうとしているように見える。集団指導の原則もないがしろにする勢いである。鄧小平が行った政治改革を逆転させており、その結果がどうなるか、注意が必要だと思われる。独裁政権は安定しているようで、不安定であり、崩れる時には急に崩れるし、政策上の間違いも犯しがちである。

 中国は強大で、かつ危険な国になっていると思われる。「説教は拒否する」というのではなく、批判にも度量をもって、耳を傾け、民主主義国の意見との懸隔をできるだけ少なくする努力が中国に望まれる。他方、こちら側にも意見の懸隔を少なくする知恵がいる。

 日本としては、中国の危険性を認識し、経済関係の在り方をより制限的にすることや一層の防衛努力をすることなどが課題になるだろう。

  
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