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2021年7月23日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

元産經新聞論説委員長

元産經新聞論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員、産経新聞社監査役を歴任。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 23日に開幕した東京オリンピックの開会式演出担当の小林賢太郎氏が前日の22日、突如解任された。お笑い芸人時代のコントで、ナチスによるホロコースト(ユダヤ人虐殺)を揶揄していたという。

 これにさきだって7月19日には、開閉会式の音楽担当者も、過去に障害のある人へのいじめが発覚して辞任している。

 コロナ蔓延のなか、国民多くの懸念、反対を押し切っての開催強行だけに、せめて運営だけは問題なく行ってほしいと思う人が少なかったろう。残念というほかはない。

 小林氏については、ホロコーストを告発し続ける米国のユダヤ人権団体、サイモン・ウィゼンタール・センターから告発があった。東京五輪組織委員会など日本側が事態を把握していなっかたことは、日本が人権侵害、人種差別といった問題に敏感さを欠くからだという非難を受けかねない。コロナ五輪は、はからずも人権問題も提起したというべきか。

(tore2527/gettyimages)

「嫌悪すべきジョーク」

 サイモン・ウィーゼンタール・センターは21日の声明で、「日本のメディアによると」と断ったうえで、小林氏を名指しし、「ナチスによる600万人にのぼる虐殺をコメディの材料として利用し、悪意ある嫌悪すべきジョークを飛ばした」、「創造性があっても、いかなる人物も虐殺をからかうことは許されない」(サイモン・ウィーゼンタールセンターのホームページ)ときびしく非難した。

 中山泰秀防衛副大臣が通報したことをみとめているが、同センターから日本側に解任要求があったのかなどは明らかではない。

 全世界に向けた声明で指弾され、すでに日本のネットでも小林氏への非難が高まっていたこと、さらに、障害者へのいじめを指摘されて辞任した開閉会式の音楽担当、小山田圭吾氏をいったん留任させようとして批判を浴びたことなどもあって、開会式前日の解任もやむなしと判断したようだ。

過去に廃刊に追い込まれた雑誌も

 サイモン・ウィーゼンタール・センターは、アメリカ・ロサンゼルスに本部を置き、40万人の会員を擁する有力な人権団体。国連などとも連携、いまなおナチスのホロコーストの告発を続けている。

 日本では、身近で被害に遭った人が少ないことなどから、国民の間での問題意識は高いとは言えないが、時にそうした意識の低さが非難の対象となったこともあった。 

 サイモン・ウィゼンタール・センターで思い起こすのは、雑誌「マルコポーロ」が廃刊に追い込まれた事件だ。

 文藝春秋社が発行していた「マルコポーロ」は1995年1月号で、医師である日本人執筆者による「ナチ『ガス室』はなかった」という記事を掲載した。

 記事の筆者は、ナチスによるユダヤ人迫害は認めながらも、自ら収集したという文献に基づいて、「虐殺したという主張に根拠はない」「多くが亡くなったのは発疹チフスなど病気が主たる原因」「虐殺手段といわれるガス室は構造などからみて戦後、ソ連、ポーランドの手で捏造された可能性がある」ーなどと主張。従来のナチスの歴史的な犯罪という説を真っ向から否定した。

 駐日イスラエル大使館や同センターが強く非難したのは当然だった。日本国内からも批判が寄せられた。当初、反論ページの提供などによって事態を収拾しようとした文芸春秋社は、結局、廃刊と当時の社長、編集長らの解任の処分を決断した。

 マルコポーロ廃刊事件は、日本の人権問題へ関心の薄さに一石を投じたが、のど元過ぎれば何とか、その後も、2016年、ナチスの軍服に酷似したコンサート衣装をまとったアイドル・グループに批判が起き、同センターが不快感を表明。所属レコード会社が謝罪するなどの問題が起きた。

 表ざたにはならなかったが、筆者は数年前、日本のある新聞社が一部地域で同様の不適切な広告を掲載、同センターからの指摘を受けて担当役員らが訪問、釈明して問題になるのを未然に防いだ話を聞いたことがある。

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