バイデン大統領は、政権発足以来、トランプ政権が離脱してきた様々な国際合意への復帰を、順次果たしてきた。WHO(世界保健機関)や気候変動に関わるパリ協定がそうである。
現在、イランとの核合意も再生させようと模索している。しかし、TPP(環太平洋連携協定) への復帰を予定しているとは聞かない。TPPはオバマ政権下で、厳しい交渉の末、12か国で合意したものだが、トランプ政権下で米国が離脱した後、残り11か国でCPTPP (環太平洋連携に関する包括的・先進的協定)として発足したものである。
11か国とは、豪州、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、マレイシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール及びベトナムである。これらアジア・太平洋の11か国で、世界のGDPの14%を占めていると言われる。EU(欧州連合)を離脱した英国は、CPTPPへの加盟を期待し、11か国と交渉を開始した。
TPPに関する米国の姿勢に関しては、9月10日付のForeign Affairsにて、アジア・ソサイエティ政策研究所副所長のウェンディ・カトラー(元USTR代表補)が、バイデン政権は中国との競争を外交政策の最大の課題に掲げているが、それなら TPP(CPTPP)に復帰すべきであると論じている。
カトラーの論説には全面的に賛成である。バイデン政権はCPTPPに復帰すべきである。この論説はオバマ政権でTPPの交渉責任者を務めた人物によるものであるが、国内向けの観測気球という側面を持つものかも知れない。
バイデン大統領は、選挙戦中から貿易協定には消極的で、焦点は国内にあるとして、まずは国内に投資し世界経済で成功する用意が出来るまでは新たな貿易協定は一切結ばないと主張していた。そこまで言い張ることに合理的根拠があるようには思えなかったが、CPTPPに回帰する様子は微塵もなかった。
しかし、バイデンはインド・太平洋で中国と競争することを外交政策の最優先に位置付けており、そうであれば、カトラーの論説が的確に指摘するように、CPTPPに回帰することは避けて通れないはずである。