10月7日付の米ワシントン・ポスト(WP)紙で、同紙コラムニストのファリード・ザカリアが、貿易について大統領選挙時のバイデンは正しかったが、大統領になったバイデンは間違っていると述べている。
ザカリアの論説は、米国の保護主義傾向を批判する論評である。ザカリアは、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)のポーゼンのForeign Affairs誌論文(「ノスタルジアの代価:自己敗北の経済退却」、2021年5/6 月号)を多岐に引用しながら、
(1)今やバイデンはトランプと同じ貿易政策を採用したようだ。
(2)米国の貿易政策は、「吟味されていない前提」に立った超党派のイデオロギーとなってしまった。
(3)保護主義は、それが間違っていると幾ら証拠で出しても、亡霊のように拡大する。
(4)最も懸念されることは、米国が世界の中で楽観的、自信に満ちた見通しではなく、自分達の問題の原因を他者に見つけようとする暗い、ゼロサム・ゲームの世界観(換言すればトランプの世界観)に後退してしまっていることだ。
などと主張する。
ザカリアの論評は的を射た議論だ。特によく吟味もしない前提に立った保護主義論が民主、共和党に共通するイデオロギーとなっているとの指摘は、全くその通りだと思う。
反貿易の政治的レトリックが真偽とは無関係にムードとして横行している。ポーゼンは反貿易論の前提は全て間違っていると言う。米国の真の問題は、国内の産業政策、人材育成など構造調整政策、セーフティー・ネット政策の不十分さなど国内にある。
米国にとってのTPPの経済的意味合いについても、米国では未だに正しく理解されておらず、ザカリアが言う吟味もされない前提に基づく超党派の反貿易イデオロギーによって反対されているというのが実態だ。
由々しいこと以上に、参加が遅れれば遅れるほど米国に不利益となるであろう。そして遅れるほど参加は難しくなるであろう。更に問題なのは、嘗ては民主党の反貿易、共和党の自由貿易という構図が今や民主、共和両党が共に反貿易になっており、米国の貿易議論を矮小化し、レトリック化し、歪曲している。