原発推進への政治的活動も
フランス、フィンランド、チェコなどEU加盟国10カ国のエネルギー、環境大臣は、欧州の主要紙に10月11日意見広告を出し「原子力発電は、現在のエネルギー危機時に見られるような価格変動を起こさず、自給率向上にも温暖化対策にも資する低炭素社会には欠くことができない信頼できる資産であり、欧州の低炭素電源の半分を占めている。再エネも必要だが、安定的な供給はできない」として、原子力発電がエネルギー危機、温暖化対策の解決策の一翼を担うべきと訴えた。
10月13日には、欧州の知識人、ジャーナリストなど25人が連名で、ドイツが現在予定している22年脱原発の中止を呼び掛けた。現在ドイツで稼働している6基の原発を廃止すれば年間6000万トンのCO2排出量増になり、ドイツ政府が目標としている30年90年比65%減の達成は不可能になるとして、原発維持を訴えたのである。現在行われているドイツの連立政権の交渉への影響を与えるかもしれない主張だ。
天然ガス購入契約の切り替えも影響
原油価格も上昇しているが、欧州での天然ガス価格上昇と直接の関係はない。米国では2000年代に始まったシェール革命により、天然ガス価格は大きく下落し、原油価格とも、アジア、欧州市場の天然ガス価格とも全く異なる動きをするようになった。価格が大きく下落した米国の天然ガス利用火力は石炭火力のシェアを大きく奪った(図-3)。
また、欧州の天然ガス価格もアジア市場とは異なる動きを見せている。その理由は、欧州での天然ガスの購入形態が、2000年代になり変わってきたことにある。1960年代に天然ガス生産国オランダと需要国ドイツ、ベルギーなどが国際長期契約を交渉した結果、価格は原油あるいは石油製品にリンクして決められることと、仮に引き取らない時でも代金を支払う「Take or Pay」と呼ばれる条項が設けられることが合意された。
その後、この契約雛形はアジア向け天然ガス取引にも広がった。一方、米国で利用されていたスポット価格での取引が欧州でも利用されるようになり、2000年代後半から欧州の多くの需要家は、その時々の価格と数量で購入を行うスポット契約への切り替えを進めた。
いま、欧州の需要家は購入量の8割をスポット契約で、アジアの需要家は8割を長期契約で購入していると言われている。今回のエネルギー危機の背景には、欧州需要家の長期契約離れの選択があった。
ロシアが出荷数量を操作しているとの非難に対し、プーチン大統領を筆頭にロシア側関係者は一様に「契約義務を全て果たしている。スポット契約に切り替えたのは欧州の需要家だ」と反論し、ECもロシアは契約義務を果たしていると認めざるを得なかった。