各国政府は、電気料金への税減免、補助金支出を相次いで決めている。例えば、ブルガリア政府は原子力発電からの利益のうち2億2500万ユーロ(約300億円)を産業部門への補助金に支出し、2カ月間産業用電気料金を1キロワット時(kWh)当たり5.5ユーロセント(7.3円)引き下げることを決めた。
EU首脳会議では、対症療法としてEU加盟国政府が既に行っている、エネルギー価格に対する課税見直し、再生可能エネルギー(再エネ)賦課金減額、貧困家庭に対するエネルギー補助金支出などが追認された。
欧州委員会(EC)のフォン・デア・ライエン委員長は、首脳会議後の記者発表の中で、「自給率向上と強靭化のため、共同での天然ガス備蓄、連携の強化、供給の多様化検討の必要性」の一般論に触れ、具体策として「天然ガス、電力、CO2排出量各市場の機能を再度評価する」とした。さらに、「コストが下がり、自給率に資する再エネ導入を引き続き進める。安定的な電源として原子力と過渡期には天然ガスも必要である」と述べた。
「EUの中流階級を抹殺することになる」
委員長が、排出量市場の機能の再評価に触れたのは、東欧諸国を中心に加盟国から強い要請があったからだ。ハンガリーのヴィクトル・オルバーン首相は「2050年脱炭素のEU目標がエネルギー価格を引き上げた。なんとか耐えられるレベルのエネルギー価格は、さらに上昇し、EUの中流階級を抹殺することになる」と主張した。
ポーランドは2030年温室効果ガス55%削減目標の見直し、あるいは延期を要求したと言われている。スペイン、チェコ、ポーランドは、CO2排出量市場における投機的な動きを制限すべきと要求した。
フォン・デア・ライエン委員長は記者発表時、原子力と天然ガスに言及したが、EUで分類作業が行われている温暖化対策に資する持続可能な事業対象に原子力と、過渡期には天然ガスも含まれると示唆したものとも理解される。欧州では、天然ガスも石炭と同様CO2を排出する以上クリーンではないとの主張が強まっていたが、今回のエネルギー危機が、エネルギー供給の多様化の必要性を認識させることになり、天然ガスに対する見方も変えたと言えそうだ。
EU内で復活する原子力推進の声
原子力発電の脱炭素電源としての必要性も改めて認識されたと言える。今回のエネルギー危機の原因は、簡単に言えば天然ガス需給のバランスが崩れたことだが、需要量を増やした原因の一つは、石炭火力発電所の閉鎖設備量に見合う再エネ設備の導入がなく天然ガス火力の利用率向上で対処していたことだ。
加えて、風力発電量の落ち込みにより天然ガス火力の利用がさらに高まったことにも原因がある。石炭火力の落ち込みを原子力発電で埋めることが出来ていれば、風力からの発電量減少分の影響も緩和できただろう。
EU27カ国の電源別発電量の推移は、図-2の通りであり、原子力の発電量は石炭火力の落ち込みを埋めるどころか少し減少している。この発電量が維持、あるいは増えていれば、天然ガスへの依存度は、いまほど高くはならなかった。低炭素電源として原子力の活用を訴える声は今年になりEU内で広がっていたが、エネルギー危機を契機にさらに大きな声になっている。