2024年12月14日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2022年2月8日

 マクロン大統領は、欧州連合(EU)の輪番議長国就任に際しての欧州議会での演説で、仏・独・露・ウクライナの4カ国協議を提案した。その演説でマクロンは、欧州構想の中心には自由を意味する主権があると強調した。更に、ロシアに対する対応を北大西洋条約機構(NATO)の同盟国と共有する前にヨーロッパ人自身の間で検討し、その後、交渉のために提案すべきだ、とも述べた。マクロンは、「欧州の自律」についてフランスが主導したい旨も述べた。

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 マクロンのこうした発言には、大統領選挙再選をEU政策に託そうとしているのではないかという指摘がある。そうだとすると、この発言は、ウクライナに関する米露外相会談の直前だったこともあり、余りにも身勝手のように思える。

 また、マクロンは、まずEU内で議論した結果を踏まえてNATOの立場を決めるべきだとの原則論を主張したが、ロシアがウクライナに傀儡政権樹立の工作を行っているとか、在キエフ米国及び英国大使館が職員等の国外退去の準備を進めているといった切迫した状況において、NATOを通じて欧米の立場をまとめ交渉に臨もうとしている米国にとっては甚だ迷惑な話である。

 EU諸国は、親ロシア発言で海軍司令官が辞任しエネルギーで首根っこを押さえられている融和派のドイツと明日は我が身との切迫した危機感を持ちNATOや米国に頼るバルト三国やポーランドの間では、ウクライナ問題や安全保障政策について既に立場はかけ離れており、EU諸国間で一致することはそもそも困難であろう。

 マクロンとしては、議長国就任にあたり、EU内に意見の相違があるがゆえに、まずEU内で議論すべきであり、また米国の安全保障政策からの自立を意味する戦略的自治という、かねての持論をウクライナに当てはめ、強調しただけということなのであろう。フランス大統領府は、マクロンの提案は米国による交渉に反対するものではなくNATOの結束を強化する狙いであるなどと弁解し、EU委員会も、欧米の継続的な調整の枠内でのアプローチであるなど、欧米間の分裂との見方の鎮静化に務めた。

 マクロンが、このような状況を承知の上で欧州議会での演説を行った背景には、あり得る対露制裁の内容や発動要件に関する米国の対応に不満があるのかもしれないが、演説前夜の欧州議会でフランス野党議員が大統領選挙を意識して徹底的にマクロン批判をしたこともあり、やはり狙いは主としてEU内及び国内向けのものであったことによると考えられる。


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