2022年7月7日(木)

インドから見た世界のリアル

2022年4月6日

»著者プロフィール
著者
閉じる

長尾 賢 (ながお・さとる)

米ハドソン研究所 研究員

学習院大学大学院にて博士号(政治学)取得。米戦略国際問題研究所(CSIS)客員研究員などを経て2017年から現職。日本戦略研究フォーラム上席研究員、スリランカ国家安全保障研究所上級研究員、未来工学研究所特別研究員なども兼任。著書に『検証 インドの軍事戦略』(ミネルヴァ書房)。

 インドは長年、ロシア製の輸送ヘリを使用してきたが、印中国境での性能不足に悩んできた。印中国境は標高が5000メートルもあり、富士山より高く、既存のロシア製ヘリコプターの運用には高度が高すぎる。

 米国製のヘリコプターは、ロシア製よりも高い高度で運用できる。だから、印中国境では、米国製のヘリコプターが有用なのである。そこで、インドは、今、米国からCH-47輸送ヘリを購入・使用しており、「ゲームチェンジャー」といわれるほど好評である。インドが、もし、より多くのCH-47輸送ヘリを手に入れれば、印中国境におけるインド軍の展開能力を上げ、防衛力全体を大幅に向上させるだろう。

 こうした印中国境におけるインドの防衛力向上は、日本にとっても利益になる。日本の課題は、毎年、軍事支出を急速に増やし、軍の近代化を進める中国とのミリタリーバランスの維持だ。ロシアのウクライナ侵攻の後は、ロシアとのミリタリーバランスの維持や北朝鮮対策もあるから、日本の防衛費の不足は深刻になりつつある。

 もし中国が、インド方面により多くの国防費を割くなら、中国の国防費は、日本向け、インド向けに分かれる。日本としても、中国とのミリタリーバランスをより維持しやすくなる。だから、インドが印中国境で防衛力を高めることは、日本にとっても国益になるのである。

克服しなければならない課題と解決策

 このようにCH-47輸送ヘリをインドにリースすることは、利点が多いものである。しかし、実行する上で、課題はないのだろうか。考えられるのは、そもそも、日本は武器輸出できるか、という課題である。

 CH-47は、輸送ヘリだから、非殺傷武器である。ロシアの侵攻を受けたウクライナに防弾チョッキを送ることができるなら、インドにCH-47輸送ヘリをリースすることも、できるだろう。しかし、日本側には別の問題もある。そもそも、CH-47輸送ヘリをインドにリースする場合、インドの複雑な制度を理解し、交渉にあたる人材や、現地に長く滞在して使い方を教えたり整備をしたりする人材を整えなければならない。他の国との武器輸出案件もこなしながら、インドの案件をこなすには、十分な数の人材をそろえる必要がある。

 この点、比較的古い装備には、利点がある。退役・退職した人の中に、使ったことのある人がいるからだ。日本では、退職・離職した人材をどう再活用するか、課題になっており、その一つの解決策にもなり得るのではないか。

 CH-47輸送ヘリのリースには、インド側の課題もある。インドは経済発展を続ける大国であり、資金的に豊かになりつつある。だから、将来を見据えて、中古よりも、新品を購入する傾向が強い。今、インドは米国からCH-47輸送ヘリの新品を購入している。なぜ日本から中古をリースする必要があるのか、インドは日本に疑問を投げかけてくるだろう。

 この場合、利点は二つある。一つは、日本のリースは価格が無料、ないしは非常に低価格で提供できることだ。インドは、CH-47輸送ヘリの数を低価格で増やすことが可能だ。もう一つは、日本のCH-47輸送ヘリは、米国製のものと違って、航続距離が2倍であることだ。米国のCH-47輸送ヘリが370キロメートル飛ぶところ、日本のものは750キロメートルも飛ぶ。だから、4000キロメートルもある印中国境では、日本のCH-47輸送ヘリの方に有利な点がある。

 では、米国は怒らないのか。もしインドが、日本のCH-47輸送ヘリを低価格で手に入れたら、米国がインドに売ろうとしていたCH-47輸送ヘリを、インドは買ってくれなくなるのではないかと、米国は心配するだろう。

 実際には、インドはCH-47輸送ヘリをたくさん必要としているから、そんなことにはならないと思う。ただ、もしインドが新品の購入を控えたとしても、解決策がある。

関連記事

新着記事

»もっと見る