発電量に占める天然ガス火力の比率により、天然ガス価格上昇が電気料金に与える影響は異なるが、脱石炭を進めていた欧州主要国は軒並み大きな影響を受けることになった。しかし、欧州の主要国の電源構成は異なっている(図3)ので、その影響も電源構成における化石燃料利用の発電比率によることになる。
天然ガス依存度が高いイタリアでは、政府がガス料金と電気料金抑制のため税金の投入を行う一方、電気料金の付加価値税の減免も行った。ドイツ政府は、再生可能エネルギーに関する消費者への賦課金1キロワット当たり6.5ユーロセントを、22年1月から3.72ユーロセントに減額し、差額を税負担とした。電気料金に加え、ガソリン、軽油への補助金投入なども行っており、ショルツ首相は、エネルギー価格上昇への対策に300億ユーロ(約4兆円)投入したと明らかにしている。化石燃料依存度が低いフランスでも、低所得者に対する補助金支出が行われ、ガス料金に上限額が設定された。
各国政府の料金抑制策にもかかわらず、欧州委員会によると昨年EU27カ国平均では電気料金は30%上昇し、卸電力価格は260%上昇したとされている。卸電力価格の上昇は、卸市場から電気を仕入れ小売り販売を行っている小売事業者の収益を悪化させることになった。小売販売を自由化している英国では小売販売事業者の撤退が相次いでいる。
撤退する英国小売事業者
化石燃料価格の上昇により卸電力価格は上昇したが、英国では消費者保護の観点から電気・ガスの小売り価格には、ガス電力市場監督局が上限を設定している。電気とガスを使用する標準的な使用量と料金を基準にした上限価格は、20年10月時点の年間1042ポンド(16万9000円)から半年ごとの改定度に引き上げられ、22年4月には1971ポンド(31万7000円)まで上昇している。電気・ガス料金は自由化されているが、昨年10月以降全ての料金は、ほぼ上限値に張り付いた状態になっている。
卸電力・ガス価格も上昇しており、監督局の資料によると20年10月から22年4月の間に3.5倍に上昇している。そのため卸市場で仕入れを行っている小売事業者が相次いで事業を停止する事態となった。
20年10月に56あった小売り事業者数は、21年9月に45となったが、その後も破綻、撤退が相次ぎ、報道された事業停止の企業数は21年10月から12月の間で16社、今年1月から3月で3社ある。新規参入がなければ、現在営業している企業は30社を割っている。影響を受けた顧客数は400万を超えている。
英国でも、小売事業者が販売を停止した場合の安全弁があり、監督局が指定した事業者が契約を引き継ぐことになっているので、停電の不安はないが、上昇する小売り料金は所得の低い家庭に大きな影響を及ぼすことになる。英国政府は脱ロシアの中期的な方策として、洋上風力増設、原発8基の新設などを発表した。安定的に競争力のある発電を行うには原発の利用が必要との考えだ。