2024年11月25日(月)

World Energy Watch

2022年4月12日

電力小売り事業とは

 水力とか火力発電所などで発電された電気は、送電ロスを少なくするため高圧で送電され、変電所で電圧を落としながら、工場、ビル、家庭に配電される。電気は必要な時に必要な量を発電しなければ停電するので利用率が低い設備も必要になる。また、発電設備とか送配電設備が必要以上にあれば無駄な投資になってしまう。

このため電力事業については供給に責任を持つ企業の地域独占が認められ、必要な原価に基づき規制当局が料金の査定を行う形になっていた。総括原価主義と呼ばれる方式だ。

 電力に関わる発電と小売部門については、競争原理を導入すればコストを下げることが可能になると考えた国が、発電と小売りの自由化を開始した。主要国で最も早く開始したのは1990年に民営化を開始した英国だった。

 日本でも2000年から大規模工場などの大口需要家を対象に自由化が開始され、16年から、家庭も電気を販売する会社を自由に選択できることになった。新規に参入する電気を販売する会社は新電力と呼ばれるが、その多くは発電設備を保有していない。

 自由化前に発電から小売りまでを行っていた電力会社は大手電力と呼ばれ、依然発電部門を保有している。送配電を行う会社は複数必要ないので、政府が許可した大手電力会社グループ企業が担当している。

 新規に参入した新電力は販売する電気を、発電を行う会社から購入するか、発電した電気の取引を行う卸電力市場から仕入れているが、卸市場に依存している会社が多い。発電設備というインフラを持たず市場から仕入れる事業形態が、本来供給義務を伴う公益事業で認められている。

 仕入れ値が上昇すれば販売価格を上げない限り赤字になり、事業継続に赤信号が付く。中には、卸市場価格に連動し小売価格を決めている新電力もあり、昨年の卸市場で取引価格が高騰した際には大きな問題になった(電気料金はなぜ突然10倍にもなるのか、再度問う「電力自由化の天国と地獄」 )。

 今回事業継続が困難になった新電力がでているのも卸市場での価格上昇が原因だ。昨年1月の卸料金上昇時との違いは、卸料金の上昇が一時的ではなく続いており、今後も直ぐに下がる可能性が少ないことだ。価格上昇の原因は、欧州から発生したエネルギー危機にある(欧州で急騰する電気料金 日本も「明日は我が身」か? )。

欧州エネルギー危機が招いた料金上昇

 コロナ禍からの経済の回復と天然ガス火力からの発電量の増加もあり、欧州では天然ガス需要量が、昨年初めから増え始めた。一方、欧州の需要量の約4割を供給しているロシアは、昨年後半から欧州連合(EU)向け供給量の半分近くを担っていたウクライナ経由の天然ガス供給量を絞り始めた。そのため需給が逼迫し天然ガス価格が上昇した。

 2月24日のロシアのウクライナ侵攻により、天然ガス価格は、さらに上昇し3月の平均価格は、日本向け液化天然ガス(LNG)価格の2倍を超えている(図-2)。スポット契約が多い欧州向けとの比較では長期契約が多い日本向けの価格はそれほど上昇していないが、長期契約の価格は原油価格にリンクしており、原油価格が上昇していることから少し遅れてこれから上昇することになる。


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