地方回帰なのか、景気後退によるものなのか?
大都市圏から非大都市圏への人口の回帰が起きていることは事実である。問題はそれが新しい人口の流れとして定着するかどうかである。
戦後70年間の動きを見ると、これまでにも大都市圏への移動が大きく落ち込んだ時期が何度もあった。谷となったのは1976年、96年、2012年である。それぞれ石油危機、バブル経済の崩壊、リーマン・ショックと東日本大震災によって景気後退が見られた時期である。
三大都市圏の転入超過、そして非大都市圏の転出超過の拡大は、経済成長率と密接に関係する。景気が上向きになり経済成長率が高まると、大都市圏の労働力需要が膨らんで人口流入が増え、景気後退期にはそれが弱まって人口流入が減るという関係だ。したがって2020年以降の三大都市圏、特に東京圏への転入超過の縮小は、これまでと同じように景気後退に見られるパターンであるに過ぎないのかもしれない。
ただ、21年の住民基本台帳に基づく人口移動報告を報じた日本経済新聞は、東京都では子育て世代である30〜40歳代の転出超過が起きたこと、反対に31道県で同世代の転入超過が14年以降、最多になったことを伝えて「東京一極集中に異変」と報じている(22年2月19日「データで読む地域再生:31道県 子育て世代流入」)。
静岡県でも転出超過の縮小が注目された。筆者もメンバーとして加わっている「美しい”ふじのくに”まち・ひと・しごと創生県民会議」では、22年2月に開催された会議の冒頭で人口動向に関する報告があり、人口減少が続くなかで、20年の日本人の転出超過が前年の約7000人から約2500人へと大幅に減少したことが伝えられた。
移住者の増加とともに移住相談件数の増加が続いているとして、将来に期待している。20年の静岡県への移住者約1400人のうち、世帯主の8割が20〜40歳代であることから、「テレワークの普及によって地方で暮らすことへの関心が高まっている」(静岡県美しい”ふじのくに”まち・ひと・しごと創生県民会議資料)と歓迎している。
非大都市圏から大都市圏への転出超過の縮小が、報道されるように積極的、意識的に地方圏での生活を選択したものであれば、新しい動きとして歓迎したい。しかし大都市圏における労働需要の縮小や、新型コロナ感染症の恐怖から逃れることを目的にした消極的な理由であるなら、状況が改善されると再び大都市圏への流出が拡大しないとも限らない。
注目すべき女性人口の地方離れ
第2の問題は、女性の東京圏への流入が男性ほどには衰えていないことだ。日本経済新聞は別の記事で、東京都の人口が21年の転入超過が前年の6分の1近くに縮小したが、男性は東京からの転出超過、女性は相変わらず転入超過のままだったと伝えている(「チャートは語る:地方回帰 女性なお慎重」22年4月10日)。コロナ禍で地方回帰が強まったにも関わらず、女性が都市に集まる傾向は男性よりも強いようだ。
その理由として、仕事と性別役割意識を挙げる。地方には女性が希望する仕事がないか、あるいは男性に限定されていること、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」という古いジェンダー観が女性の行動をしばっているというのだ。それを嫌って、進学や就職を機に大都市圏へ移る例が多くなるのである。