2024年11月22日(金)

ニュースから学ぶ人口学

2022年5月2日

 大都市で就職しようとする背景には賃金の高さがある。家賃や食料など生計費の高さを考慮しても、地方圏にはない魅力があると考える若者は少なくない。企業にとっても大都市に立地することは有利と考える。

 経済理論は、人が集まることによって集積の経済が生まれ、生産性を向上させると説明する。個人にとっても、企業にとっても、国民経済にとっても、大都市への集中は有益だということになる。三大都市圏あるいは東京への人口集中は日本経済にとって避けられないというより、進めるべきことなのだろうか。

文明転換期に変わってきた人間の居住

 文明転換期における東京一極集中と地方圏からの人口流出問題の解決は簡単ではない。第1に豊かさの概念の変化がある。日本経済にとっては東京一極集中が望ましいという見方があるが、これから求めるべき豊かさとは、国内総生産(GDP)のような市場において取引された商品やサービスの付加価値で測る豊かさだけではないとの考えが支配的になりつつある。

 その代表例は経済協力開発機構(OECD)が提唱するBetter Life Index(より良い暮らし指標=幸福度)である。この指標は、所得・資産、賃金・雇用などの経済指標のほかに、住宅、健康状態、ワーク・ライフ・バランス、教育、環境、安全、社会とのつながり、市民参加、そして主観的な幸福といった11項目からなる多面的な指標である。このような内容の豊かさの実現にとって、どのような居住形態が相応しいのか、検討する必要がある。

 第2に現代社会が、「ソサエティー5.0」(Society 5.0)と呼ばれる文明社会へと移行しようとしていることである。この概念は日本の科学技術基本計画(第5期)が提唱したもので、IoT、ビッグデータ、AI、ロボットに代表される技術を基盤とする社会である。さらに加えて、再生可能エネルギーを基盤とする持続可能な社会への移行が求められている。

 これまでの狩猟・漁労・採集社会、農業社会、工業社会、情報社会は、それぞれ基盤となる資源が異なっており、生活、生産の立地も、人口や集落の規模も異なっていた。それならばソサエティ5.0の社会では、どのようなかたちの人間居住や人口配置のありようが求められるのだろうか。人口を維持し、これまでの地域をそのまま維持しさえできればよいというわけにはいかない。

 地方自治体は都市部からの移住促進施策を打ってきた。コロナ禍のもとで、リモートワークや遠隔授業が当たり前になり、感染者数が多い大都市圏を避けて郊外に居住する傾向は確かにある。ワーケーションというような新しいライフスタイルも生まれている。しかしそれで、今後、地方圏でますます加速する人口減少と少子高齢化に対応することは可能なのだろうか。

 今、日本人口は50年間に30%減少する勢いで縮小を続けている。全ての自治体で人口を維持することは可能なのか、あるいは意味のあることなのか。大都市圏の空洞化は経済にどのような影響をもたらすのか。移住促進に限られた予算を割くのではなく、人口が減少しても安心して生活できるような仕組みの創造に力を入れなければ、地域全体の行政システムや社会インフラが瓦解してしまう恐れがある。

 地方消滅は可能な限り避けなければならないが、過去には文明社会の移行にともなって、集落の撤退や都市・村落の興廃があったことも事実である。個人の居住地選択や移動の自由は、犯すことのできない基本的人権だ。それを尊重した上で、冷静に工業社会とは異なる新たな文明社会への移行を視野に入れて地域の将来像を模索する必要がある。大都市圏から地方圏への人口還流の奪い合いに疲弊してしまってからでは遅い。

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