女性人口の流出は静岡県でも以前から問題になっていた。静岡県の転入超過数も大都市圏と同じく、経済成長率が高い時期に増えるか、あるいは転出超過が減少する。景気が上向きの時期には東京圏への転出が増加するので、複雑な動きを見せることになるものの、結果として、東京圏の転入超過が大きい年には静岡県では転出超過になるという関係が明瞭である。
1995年以降、静岡県の女性の転入超過数はマイナスが続いている。男性は時に転入超過になる年もあったが、女性は一貫して転出超過が30年近く続いている。
特に問題になるのは移動者の年齢である。2021年の静岡県の年齢階級別転入超過数は、5歳未満と35歳以上ではプラス(転入超過)、5〜34歳ではマイナス(転出超過)だった。各年齢別では男女ともに18歳と22歳で転出超過数が突出している(図3)。大学・専門学校への進学と就職による県外への転出がおもな理由である。
年齢階級別では、15〜19歳の転出者は男1332人に対して女1181人と男性が多いが、差は小さい。それに対して20〜24歳では男734人、女1910人と女性が2.5倍にもなっている。
国土交通省の調査(「企業等の東京一極集中に関する懇談会取りまとめ」)によると、男女ともに東京圏への移動の理由の上位は、希望する職種や待遇を得られる仕事のあること、希望する進学先のあることが上位を占めている。男性の方が仕事を理由とする回答したものが多いが、出身地の地方圏の経済状況が改善されれば人口流出が止まるとは言えない。なぜなら、日常生活や交通の利便性、出身地の社会の閉塞感、地域の文化や風習、娯楽施設の少ないことなど、アメニティの充実を挙げたものが少なくないからだ。
東京圏での生活の魅力につながるこれらの理由を回答としたのは、男性よりも女性で多かった。15〜24歳の女性の流出は次世代の出生数を減少させるので、「地方消滅」へのあゆみを加速させることを意味するから、問題は深刻である。
「田舎暮らし」は促進すべきなのか
2020年国勢調査の結果を受けて、総務省は今年4月1日に27道府県の65市町村を過疎地域として追加した。これで全国885と市町村の過半数が過疎指定団体となった。
過疎団体は大都市圏内にも存在するが、ほとんどは非大都市圏にある。出生率の向上は簡単ではないから、まずは人口流入の増加を目指す自治体は多い。
「田園回帰」「田舎暮らし」と銘打って、地方自治体が都市部からの移住促進施策を打ってきた。新型コロナウイルス感染拡大により、またそれを強めようとする動きも出ている。非大都市圏ではどこでも若者を地元に定着させて人口の維持を図ることに躍起になっている。
そのため大学には人口流出のダムとしての役割が期待されている。地域内への定住と産業振興の源泉として位置付けられている。しかし出生数減少が続く中で、地方私立大学では入学定員を満たせない大学が増えている。またせっかく大学が若者を一時的に引き留めても、魅力的な生活環境や働く場所がなければ、大都市圏への流出を止めることは難しい。