未来を拓く貧困対策

2022年5月11日

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常に新しい社会問題を探す「焼畑農業」に未来はあるか

 このように、評価指標(KPI)、PDCAサイクルによる行政評価、エビデンスベースの政策立案といった民間手法を導入すればするほど、肝心の市民サービス向上のための人的資源はなくなっていく(図表4)。

 

 メディアで注目された社会問題に対して、迅速にプロジェクトチームを結成し、解決に向けた迅速な行動をとる。近年の政府をみると、その動きはより早く、洗練されているようにみえる。

 一方で、「賞味期限切れ」となった政策の手離れも加速している。国の新規事業の予算編成をみると、1年目の事業立ち上げでは国が10割を負担するが、2年目は2分の1にするといったやり方が散見されるようになった。

 国民の興味関心が高い初期段階では大盤振る舞いをし、興味を失ったあとは自治体に実施を任せていく。市民サービスのための人員を焼き尽くす「焼畑農業」式の政策実施である。短期的な成果は上げられても、長期的に見れば安定的な行政運営を危うくする。

つまるところ、必要なのは「恒常的な財源」

 とはいえ、社会問題を放置していいのか、自治体任せにすれば解決をするのかという批判もあるだろう。何ら解決策を示さず、批判だけをするのは無責任である。

 ここでは民間の例にならい、国と自治体を企業になぞらえて考えてみよう。国が親会社で自治体が子会社の場合と、国と自治体が対等なパートナーの場合にわけて考えてみよう。

 親会社、子会社の関係でいえば、親会社と同じ内容の計画策定を子会社に求めるのはいかにも不合理である。親会社が全体の計画を策定し、子会社はその計画を受けて実行部隊として力を発揮するのがよい。地方分権の理念には反するかもしれないが、「実利」を取るならアリだろう。

 対等なパートナーと考えるのであれば、事業を「発注」するなら契約を結ばなければならない。何年契約で、予算はいくらで、サービス提供の品質はどう保証するのか。優越的な立場を利用して不利益を押しつければ、企業は社会的信頼を失うものである。

 どちらの場合にせよ、必要となるのは「事業を安定軌道に乗せ、その後も維持していくための恒常的な財源」である。

 例に挙げた自殺対策にしろ、子どもの貧困対策にしろ、ヤングケアラーにしろ、計画を立てて何年か事業を実施すれば問題が解決してハッピーになるような簡単なものではない。解決には何年もかかる。もちろん、金もかかる。

 この現実は、国の官僚ももちろん理解している。理解したうえで、コストがかからない「焼畑農業」しか選択できないのである。

 根本的な原因は、少子高齢化に伴う社会保障関係費の増加や行政ニーズの多様化に対して、「ニーズを充足するには財源が必要」という社会的合意がないことにある。これは、「財源がないのなら、すべてのニーズは充足できない」という消極的な合意でも構わない。

 合意を前提とすれば、「ニーズを充足するには、予算はいくらかかるのか」「予算の範囲内でニーズを最大限充足するには、どのように資源を配分すべきか」「何を諦めるのか」という当たり前の議論ができる。

 それをないがしろにし、「コストをかけずに問題を解決できるミラクルな方法があるはずだ」という幻想にとらわれた結果が、現在の行政サービスの質の低下である。

 ワーキンググループの議論は、メディアにはほとんど取り上げられていない。しかし、こうした不都合な現実を放置すれば、近い将来、行政サービスは機能不全に陥るだろう。どうすればそれを防ぐことができるのか。筆者も考え続けている。

  
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